また見破られた

 崩れた正門の前で、リアンたちはバルミアの軍がやってくるのを待った。

 やってくる軍の数からして一万か、それ以上は居そうだ。


 やがて正門で待っている中にロアードがいると気がついたのだろう、進軍が止まり、数人の兵士がこちらにやってくる。

 屈強そうな兵士が殆どだったが、彼らの中心にいるのは女性であった。


 それもとびきりの美人だ。黒髪の長い髪は後ろで纏めてあり、目尻はキリリとしている。

 胸が大きくスタイルが良い。それだけでなく、しっかりと鍛えられた筋肉があり、腰に揺れる剣が飾りではないと思わせる。

 堂々とした態度と周りの兵士の雰囲気からして、この者がバルミア軍の指揮官のようだ。


「……報告に会った通りね。ロアード、なぜ貴方がここに?」

「エルゼ、お前こそなんでここにいるんだ」


 エルゼと呼ばれた黒髪の美女は馬上から降りて、近づいてくる。

 側にいたリアンたちをちらりと緋色の瞳で見ながら。


「ロアード……知り合い?」

「ああ。知らないようだから教えておくが、エルゼはバルミア公国の女王だ」

「えっ……女王!?」


 指揮官どころじゃない存在だった。まさかのバルミア王その人が、この女性とは思わなかった。

 だが確かにロアードどエルゼはどことなく似ている。黒髪も同じ色合いだ。


「第十七代バルミア公王、エルゼリーナ・オーデン・バルミアよ。私がここに来たのは首都を覆っていた雨雲が晴れたと聞いて、この原因を探るためにここに来たの。ロアード、ここで何かあったか聞かせてくれる? 邪竜の呪いを解いたのは貴方なの?」


「いいや、俺じゃない」


 エルゼの言葉を即否定し、ロアードはリアンの方を見る。


「ええっと……これはそのまま説明していいものかな?」


「バルミア公国は邪竜を恨んでいるのではありませんでしたか? 現にギルドには討伐令が出されています。リアン様の話を信じてもらえるかどうか……」


 リュシエンの指摘にリアンは頭を抱える。

 本当のことを言ったところで信じてもらえるものか分からない。


「……エルゼなら俺と違って頭ごなしに否定はしないと思うが」


 だが意外にも助言を出してきたのはロアードであった。

 彼の言うところが正しいのなら、水竜のリアンの言葉であっても聞いてくれるのかもしれないが……。


「何をコソコソ話しているの?」

「あっごめんなさい」


 凛とした声が届き、慌ててリアンはエルゼリーナに向き直る。


「隠さなくても大丈夫よ……貴女は水竜様でしょう?」

「えっ!? なんで分かるんですか!?」


 まさか言い当てられるとは。

 驚く一同の反応を前に、エルゼリーナの表情は変わらず凛としていた。

 対して彼女の兵士たちは慌てる様子を見せた。水竜と言えば彼らの考えではレヴァリスしかいないからだ。

 臨戦態勢を取ろうとする兵士たちをエルゼリーナが手で制す。


「透明な水のような髪に琥珀の瞳。恐ろしいほどに綺麗なその色を纏うのは水竜しかありえません。……事情を話してくれますね、水竜様?」


 聞き取りやすい落ち着いた声音で話しながら、エルゼリーナは微笑んだ。


 エルゼリーナは話の内容が聞こえない位置まで兵士を下がらせる。

 兵士が離れたことを確認してからリアンは事情を話した。


 先代であるレヴァリスの魂が消失し死亡した後、入れ替わるように転生し、二代目水竜となったことも含め、ここまでの経緯を話す。

 その話を静かにエルゼリーナは聞いていた。


「なるほど……ではリアン様はレヴァリス様の残した物を解くために、この首都にかかっていた呪いを解いたのですね?」

「うん。そうなるね」

「では、バルミア公国民を代表し、感謝致します。貴女のおかげで我らが愛するこの地を取り戻せたのですから」


 そう言ってエルゼリーナはリアンに向けて頭を深く下げた。


「私の話を信じてくれるの? レヴァリスの嘘とか思わないの?」


 すんなりとリアンの言葉を信用した様子を見せるエルゼリーナに、リアンは戸惑った。


「なぜ、私を疑いになられるのですか?」

「……今まで疑われてばっかりだったからね」


 リアンの言葉にリュシエンとロアードが揃って気まずそうに目をそらした。

 水竜レヴァリスのことをリアンはよくは知らない。


 だが周囲の人々の話からして碌でもない竜というのは分かる。

 故にリアンが真実を口にしても、レヴァリスが積み重ねた悪評が全てを疑惑に変えていた。


「レヴァリス様は死んだとおっしゃいましたね。なら、そうなのでしょう」

「どうして君はこの話をすぐに信じられるの?」

「彼がおっしゃっていましたから。死ぬ時は飽きた時だと」

「……君は、レヴァリスにあったことがあるんだね」


「ええ。――父を殺した時に、、、、、、、


 何の感情もなく、さらりとエルゼリーナは言った。


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