花畑と白虎
白虎は怪我をしていた。
血痕を残しながら移動していたので、後を追うのは簡単だった。
リアンたちが血痕を追いかけると街外れの森にたどり着いた。
段々と日が暮れ、薄暗くなっていく森の中を移動する。
道中に弱い魔物を見かけたがリアンを見かけると逃げていった。
リアンの持つ力を察知し、水竜と気付いて逃げていったのだろう。
魔物は魔素の力に敏感だ。
抑えることもできたが、魔物よけにもなるのでリアンはそのままにしておいた。
しばらく歩けば鬱蒼とした木々が突如と開けた。
「ここは……」
「花畑のようですね」
様々な花が咲く場所だ。
森の奥に隠されたようにあったので秘密の花園のような雰囲気がある。
「ガルル……」
花畑の近くに横たわった白虎がいた。
リアンたちの姿を見つけると、威嚇するように声を出す。
しかし、怪我のせいだろうか? ずいぶんと弱々しい声であった。
「安心して。私たちは君を討伐しに来たわけじゃないから。……君、コレットを探していただけでしょ?」
「……ガルゥ?」
コレットの名を出せば、知っているの? と訝しむように白虎が首をかしげる。
その白虎は今も真っ赤な血を流していた。
真っ白な毛のせいか、余計に赤が目につく。
「話はあとで、まずは怪我を治療しよう」
「治療はわたしにおまかせください」
ファリンが白虎に静かに近づく。自分に敵意はなく、武器を持っていないことを示しながら。
その後ろでは万が一があってもいいように、リュシエンが身構えつつ見守っていた。
ついでに周囲の警戒もしている。
「大丈夫です、すぐ治りますから」
ファリンが大きな虎に怯まなかったのはその瞳に宿るものが獣のそれではない、優しいものであると気付いたからだろう。
白虎も危害を加えるものではないと気付いたようで、威嚇するのをやめていた。
「リアンお姉様、止血をお願いできますか?」
ファリンは背負っていたリュックから道具を取り出しながら、リアンに頼んだ。
「止血ってどうやるの?」
「普通の止血ではなく、竜の力を使って水の流れを止めるような形でしてください」
「なるほど、そういう感じならできるよ」
血もまた液体だ。流れる水と同じである。
さっそくファリンの言う通りに血を止めれば、流れ出ていた血がぴたりと止まった。
もちろん止めるのは傷口から出てくる血だけだ。体の中を流れる血まで止めてはいない。
そもそも体内を流れる血はその者の魔力に邪魔されるのでやりにくいものだ。
その間にファリンは数種類のフラスコを手にしていた。
全て傷薬のポーションであるが、配合が微妙に違うものだ。
魔物と人では体の作りが違う。故に薬の効き方も異なってくる。
ファリンはその場で調合をし直した。魔物であり、体格の大きな白虎に合うように。
「ちょっとしみるかもしれません」
白虎に優しく声をかけながら、ファリンが出来たポーションを傷口に振りかける。
自然の力が宿るポーションは傷口を癒やしていく。
剣で斬られた大きな傷はすぐに治っていった。
ファリンのポーション作りの腕前は相当なものである。
この場ですぐに調合し直したのもそうだが、効果の素早さも挙げられるだろう。
「ファリン、すごいね! 白虎ちゃん良かったね!」
「ガウ!」
傷が一瞬で治り、驚きつつも嬉しそうにしっぽを振る白虎に、リアンも一緒になって喜ぶ。
その大きな頭を撫でてあげれば、ふかふかの毛がリアンの手を包んだ。
ついでに血がついていた毛を洗うように水で綺麗にしてあげた。
「いえ、そんな……あふ……ふかふか気持ちいい」
ファリンは褒められて嬉しいのか、少し照れながらも元気になった白虎を見つめる。
白虎はファリンに礼をするように、しっぽで頬をなでた。
「さてと……君はなんでコレットを探していたのかな?」
「ガルルゥ」
どっしりと大きな巨体を起こして、白虎が立ち上がる。
あたりはすっかりと暗くなった。月明かりに照らされた花畑を白虎は見つめる。
薄暗くて見えづらかった花畑。今は月明かりで見やすくなり、リアンは気がついた。
花の元気がない。萎れたように下を向く花たち。
一本ではなく、この花畑全体がそうであった。
「ガウ、ガルル。ガルルル!」
「また遊ぼうね、とコレットと約束した。だからずっと待っていた、この花畑で……?」
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