サントヴィレ編

先客がいた

「これはまたずいぶんとひどい有様だね」

「ええ、そうですね」


 リアンの言葉にリュシエンが神妙に頷く。

 リアンたちは盗賊の案内の元、彼らのアジトへ辿り着いた。

 時間にして一時間と掛からなかっただろうか?

 この世界の地理に疎いリアンだったが盗賊とリュシエンのサポートを受けながらのフライトは順調だった。


 そうしてやってきた盗賊団のアジト。

 自然の洞窟を利用したもので、ぽっかりと空いた入口には見張りらしき男が二人いた。

 ……いや、倒れていたと言うべきか。


「腹部に打撲があります。腕や衣服の切り傷からして、剣で切られた後に固いもので殴られて気絶させられたのでしょう」


 ファリンが倒れた二人を診察し、ポーションで治療しながらそういった。

 ファリンはポーション作りはもちろんのこと、医術の心得もある。

 そういった技術を会得したのは彼女の境遇が影響しているが……まぁ今はおいておこう。


「魔物でやられた傷でもないようですし、地面の足跡を見ても人間のものしかない……リアン様」

「うん。どうやら先を越されちゃったようだね」


 地面の足跡を確かめていたリュシエンに、竜の姿のままのリアンが頷く。

 どうみても盗賊団のアジトは襲撃を受けた直後のようだ。それも人間によるもの。

 気絶させられているところを見ても、このアジトを潰し、盗賊たちを捕まえに来たといったところか。

 奇しくもリアンたちと同じ目的だったようだ。


「ちょっと残念だなー。水をドバっとやって懲らしめるつもりだったのになー」

「ひっ……」


 リアンの無邪気な言葉にエルフの村で捕まえてきた盗賊たちが震え上がる。

 身を持って知っている彼らはつい、渦巻の中で回されたことを思い出してしまったのだろう。


「しかし妙ですね……足跡的に襲撃者のは一人分しかないのですが……」

「こっちも洞窟から聞こえてくる音が一人分しかな――」


 洞窟からリアンたちのいる入口に向けて、一人向かってきていた。

 他に音が聞こえないのは制圧した後だからだろうか。

 このアジトを潰した者らしき人物の足音が――ふと消えた。

 いや、最後に大きく踏み込んだ音がした。跳躍したのだろう。


「貴様はあああああああ!!!!」


 雄叫びと共に、それは弾丸のようにして暗い洞窟から飛び出してきた。

 煌めく剣の先をリアンに向けながら。


「なっ!」

「リアン様!」


 反応が遅れたリアンをかばうようにリュシエンが間に入る。

 村を出る時から背負っていた長槍を手にし、突き出された剣を受ける。

 剣と槍が激しくぶつかった音が響いた。


「てめぇ! 何しやがる!」

「……ええ、まぁ。自分でも驚いていますよ。放って置いても死なないでしょうに」


「放って置いても死なないって……まぁその通りだけどさぁ」


 正直に言ったリュシエンになんとも言えない目線を送るリアン。

 それでもリアンを守るように反射的に動いたリュシエンの前には、大剣を持った一人の青年がいた。


 年頃は二十代ぐらいだろうか? 黒髪から覗く耳は長くなく他に特徴もないので、普通の人間だろう。

 服装は丈夫で動きやすい旅装束。服のくたびれ方からして年季が入っている。

 手にした剣も様々なものを斬ってきたと思わせる鈍い輝きをしていた。

 若いながらも熟練の冒険者といった雰囲気がある。


「そこを退け……! そこにいるのが邪竜だってわからないのかっ!」


 紫の瞳はキッと睨みつけるようにリアンを映していた。

 憎悪に殺意を感じる。どうみても友好的ではない。

 そしてこちらもリュシエンに負けず劣らずの美丈夫であるから、迫力が何割か増している。


「貴様だけは許さねぇ……! ここで殺してやる!」

「理由は?」


 やれやれと思いながら、リアンが剣を持った男に聞く。

 ちなみに近くにいたファリンがこの状況におどおどしていたので、大丈夫だよと目配せする。


「貴様が忘れても俺は忘れもしない……十五年前、我が国、グラングレス王国を滅ぼしたことをな! 俺はロアード・バルミア・グラングレス! グラングレス王国の王子として貴様に殺された王と民のために――ここで仇を討つ!」


 リアンは思わず空を仰ぎ見た。清々しいほどの晴天だ。


「まさかの亡国の王子様だったよ……!!」


 先代へ。

 あなたのせいで転生してから今日まで。

 殺意が向けられる日々が続いております。


 ……どうしてくれるんですか?

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