第24話 矢部総一郎が未来を救うと信じて!!
…………
…………
…………
「ん……?」
何……。寝てた?
というかどこだここ。
マット……。なんかの倉庫?
「おはよう。大丈夫かい?体に異常は?クラクラするとか、吐き気がするとか。特に傷は見受けられなかったし、睡眠薬だと思うんだけど」
メガネにオールバックのお兄さんがとても心配そうに僕の顔を覗き込んでくる。誰……。霧原先輩たちは?
「あなたは?」
お兄さんはにっこりと微笑む。
優しげでありながら妙な迫力があって、さながらインテリヤクザがお金の話をしてるときのように見える。
「私の名前は
「矢部です。矢部総一郎」
名前を聞いた瞬間に田中さんの眉がピクリと動いた。
「いい名前だね。さて、状況を説明したいな。どこから聞きたい?」
「さっきまで霧原先輩たちといたはずなんですけど。ここはどこですか?」
誘拐されてる?
「ここはアウトローのメンバーが所持している倉庫の一つだ。霧原くんのことだが……」
アウトロー?矢部総会の一派?だっけ。
少し悩んだ風に思案顔になった田中さんの背後から、ヌッと何か大きい影が現れた。
「ああ怖がらなくていいよ。彼は私のスタンドだ」
スタンド!?スタンドってあのジョジョで出てくる特殊能力の擬人化みたいなあれ!?現実だとこんな普通の人の見た目になるんだ……。
「ちげえよ。お前も信じるなアホが」
「すいません」
「おい堅、椅子は」
「私のを使うといい」
田中さんが席を立ったけど大男さんは首を振った。
「……いやいい」
「遠慮しいだな君は」
「うるせえ」
そう言いながら大男さんはその辺にあった木箱を簡単そうに持ち上げ、マットの横に置いて座った。
マットに寝転がってる僕と横に怖い男の人が二人いる絵面なんだけど、僕は臓器売買されるんだろうか。
「話を戻そうか」
「俺は聞いてねえ。どの話だ」
「霧原くん達の話だよ。かえって質問したいんだけど、矢部くんは桐原くんが何をしようとしているか知っているかい?」
何をしようと?何を……?
「分かりません」
「そうか。だそうだよ」
大男さんは話を振られてじっとこちらを見てくる。
「こいつ本当に男か?」
「見て分かるだろう」
「分かるわけねえだろ変態がよ……」
「田中さん僕が男って分かるんですか?」
ずっと疑われ続けてきたのに。
「こいつは変態だからな。その話はどうでもいい。で、天下の矢部総会の総長様がなんで部下に眠らされてるんだ?それが俺は聞きたい」
「質問してるのは矢部くんのはずなんだけどね……」
「矢部総会から知らないですし総長になった記憶もないんですけど……」
田中さんと大男さんが目を見合わせる。
大男さんはこちらを見て口を開いた。
「お前、Y総会は知ってるか?」
「はい」
「霧原達がY総会の人間なのは知ってるか?」
「はい」
「
聞いたことがないようなあるような……。
「分からないです」
「……最後の質問だ。お前の名前は矢部総一郎。郷田高校一年生、帰宅部で、父親は国会議員の
「……なんでそこまで知ってるんですか?身代金目的とかですか?その、言っていいか分かんないですけど多分お金出してくれないですよ?」
「黙って答えろ」
怖い……
「そうです。その矢部総一郎です……」
大男さんは舌打ちした。
「間違いねえな」
「そうだね。とりあえず説明しようか。まず矢部くん、君は霧原くん達、霧原武会に誘拐されかけていた。そこで僕の助けが間に合って、君はここで保護されている」
なにそれ、どういうこと……?
「誘拐だなんて……。僕は妖怪から逃げただけなんですけど……」
「あ?妖怪だぁ?」
大男さん怖い……。
「いえ、四階にそういう怪物がいるって噂で……」
「ははは!あそこは放課後に生徒会が見回りにくるし、そんな怪物いないよ」
田中さんは笑って否定するけどじゃああの足音は……?いやいえないけど。
「まぁ反乱計画の一部で間違いはねえだろ。堅、これからどうする」
「その前に総長様だね。君はどうしたい?」
どうしたいと言われても困る。
僕には限りなく関係ない話だし。
「家に帰りたいです」
「諦めろ。お前の家を霧原は知ってる。一度狙った以上あいつらは次もお前を狙う。滅多にそういう手には出ない連中だからな。やるとなれば必ずやるぞ」
でも家以外帰るとこないんだけど。少なくともお母さんは心配するし。
「しばらくここにいろ。ここには必ず誰かいるようになってる。なにしろ俺たちの根城だからな」
霧原さん達よりこの人たちを信じろって言うのか。
「信じて欲しい。私達は味方だ……だよね?」
田中さんが大男さんに同意を求める。
「知るか。……まぁ総長代理に話せばすぐに片付くだろ。それまでは俺が預かってやる」
「……でも、僕お二人のこと知りませんし……」
「…………俺もお前の事なんか知らねえよ。そんなに帰りたきゃ帰ればいいだろ。別に俺は止めねえぞ」
怒らせてしまった……。
「まぁ落ち着くんだ
「るせぇ。飯買ってくる。必要なものがあれば連絡してこい」
そう言って大男さんは倉庫の外へ出て行ってしまった。
「すみません……」
「いいんだ矢部くん。信用できないのは分かるよ。蘇我島もあの見た目だからよく職質とか受けてるし自覚はある」
「蘇我島さんっていうんですね。田中さんとはどういう関係なんですか?」
「彼は私のボスだよ。つまり、彼がアウトローのボスだ」
「そのアウトローっていうのは?」
「矢部総会はそもそも愚連隊や暴走族を一つにまとめ上げた組織でね。三年前の大抗争期を経て八つの部会と総長代理が郷田市を統一した。アウトローはその時に負けたその八部会に入っていない連中の集まりだ」
思ったより怖い歴史の組織だった……。それの総長にされてるってどういう事なわけ……。
「霧原さんは……八部会の一つ、ですか?」
「そう、霧原武会のボスだよ。総長代理の親衛隊とも言っていい程でね。アウトローを一番増やしたのは彼女らだ」
「……でも霧原先輩達は優しかったです。誘拐する人たちには見えなかった」
田中さんは考え込む。
「だろうね。普段の霧原くんとはよく話すよ。だからこそ彼女らは、怒ると怖いんだ。今回の強硬手段も、相当キてるって事なんだろうね」
あの日僕を助けてくれた霧原先輩達と全く違う一面を見せられてる気がする。あー。でもそういえば私は不良ですって言ってたな……。信じられなかったけど。
「僕、家に帰れるんですか?僕関係ないのに……」
「それはすぐに解決するよ、大丈夫。私達だって無関係な人間を巻き込むような真似はしたくない。だからこそ、一晩だけ待っていて欲しい。この一晩で君の安全が保証できるんだ。頼む」
頭を下げる田中さん。そこまでされるともう仕方ないというか。うん。相変わらず流され気質だとは思うんだけど、まぁ一晩だけなら……。
「分かりました」
それを聞くと田中さんはニコッと微笑んだ。でも誰かを謀略にはめた時の笑顔にしか見えない。
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