間話 知的な変質者
「総長代理。こちらを」
桐原の手から手のひらより少し大きい白い箱が渡される。
「……データは?」
「全てリセットしてあります」
「そうか。では安心して使ってもいいか」
「はい。計画通りです」
「計画か。金に糸目はつけないとは言ったものの……これだけのためにここまで金をかけたのは我ながら冷静さに欠けたかな。君には感謝してるよ。これで自分も前向きに総長に会おうという気になった」
箱の中にはスマートフォンと白い紙が一枚入っていた。可愛らしい文字で書かれたID。
「どことなく総長の匂いがする……」
紙を自分の鼻にまで持っていき大きく息を吸った。
「……本人が見たら絶句しそうです」
「一人でやるべきだった。すまない。あまりにも遠い存在だから、これすらありがたいんだ。神棚に納めたいくらいだよ」
「そうですか。直接会われるのが楽しみですね。ただ、そのような発言は自重した方がいいと思います。似た発言をしている方を知っているので」
「榊原くんか。彼がうらやましいな、本当に。いや、自重はするさ、嫌われたくない。だからこそここまで遠大に話を進めているわけだしね。遠大すぎて規模もよく分からなくなってきたけど。……しかし、字ですらこんなに可愛いと一目惚れも間違ってなかったかな」
笑みがこぼれてしまう。こんな記号数文字を書いた紙だけがこんなに嬉しい。
「それで、総長代理。以前の話ですが」
桐原が真剣な目でこちらを見てくる。いつもの全てに興味がなさそうな冷静な視線ではない。
「却下だ。以前も話したな。この話については何が起きても覆らない」
わがままな自分を隠すつもりはなかった。そもそもそういう前提の組織のはずだったから。
「……そうですか。失礼します」
「はい。ごめんね桐原」
パタンと扉が閉じる。
「近づこうと思えば思うほど遠くなる。我ながら嫌な性格だなぁ……」
桐原の考えていることは噂になる程度には知っていたし、だからこそ明確に否定しておかなければいけない。
「……本当に嫌な性格だな」
そんな時でも総長の事しか考えられなかった。
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