第7話 結局追い出したいだけでしょ?
「矢部……お前、最近隠してる事ないか?」
放課後に大倉先生に職員室に呼び出された。
なんのようかと思えば。
「特に思い当たるものはないです」
「そうか……。まぁ例えばだがな。学生証のどこかを間違ってたりしないか?」
「しないです」
名前も誕生日もあってると思うんだけど。
「そうか……まぁそうだよな」
大倉先生は頭をかいた。
「俺もバカどもに付き合っちゃおれんのだがな。まぁ要するに」
相変わらず口悪いな。
「はい」
「一部の生徒からお前が男とは思えないとな」
「またですか!!」
そんな話は入学してから三回くらい聞いてる。ていうか先生もそんな話が出た時点で訂正してほしい。
「そう、まただ。でな、職員会議になったわけだ」
先生方って暇なのかな。
「うん、お前が言いたいことはわかる。先生方も何をバカな事をという話になったんだが、教頭が「しかしねぇ、実際に健全な教育に対する意見なのだから……」と仰ってな」
そういうと先生は学校案内パンフレットの四階の一室を示した。
「教室で着替えられると集中できないだとかなんとか。そこでな、この四階の一室か、トイレで着替えてみたらどうだ」
「嫌です」
なぜあえてそこなのか。怖い話聞いたばっかりなんですけど。
「流石に遠いか」
それもそうだけど違う。
「その、保健室とかはダメなんですか?」
「保健室か……入れない時もあるからなぁ。一部で騒ぎになってるから飯橋先生はかなり消極的だな」
「かと言って他に空き教室は……」
「そうですか……」
「まぁ、追って結論は決めるから、しばらくはトイレで我慢してくれないか」
「……いえ。体操着着て来ますから」
トイレは花子さんがいるし……。いや、いるかもしれないし……。別にいないとは思うけど、もし万が一いたら困るし。
「そうか。まぁいいだろう。ただ問題はもう少しあってな」
これ以上何があるんだろうか。
「むしろこれが1番の問題というか、まぁなんだ……夏になると水泳があるだろう」
まさか。
「お察しの通りだ。まだ冬だからいいが夏になると厄介なことになるな。今年はお前水泳でなかったよな」
「はい」
「……サボってたな?」
「プールの季節中だけずっと風邪でした本当です」
「そう言うなら次から診断書持って来い。そんな長い風邪があるか」
ぐっ……。
「飯橋先生がその理由で通してたのは、春頃にお前の事で騒ぎがあったからだろうな」
そう言う理由。つまり僕が水着になるとめんどくさいから?なんで男の水着で騒ぎになるんだとは思うけど。
「でも、先生方はそっちの方がいいなら僕はわざわざ入りませんよ。水泳とか必要ないですし」
実際そうなったら嬉しい。
「アホなこと言うな。クソ暑い中体育館走り回りたいのか?とにかく来年はお前も水泳に参加するように。まぁ水着については今のところ女子用のものが検討されてる」
「え、いやですけど!?」
「まぁお前も嫌だとは思うが、夏の間サボってた罰とでも思ってくれ。水着については共用できそうなのを検討する」
……どうしてこんなことに。
嫌すぎる。なんで女子の水着なんて着なきゃいけないんだ。かわいいって言われるから?そんなの僕が決めたわけじゃないし。そもそも可愛くないし。男で可愛いなんて山条さんくらいの奇跡的確率で生まれるだけで、僕は違う。
職員室を後にする。なんで僕がこんな目に……。
「おう矢部!帰ろうぜ!」
榊原か。……よく考えればこいつが僕を可愛い可愛い言うのが原因なのでは?
それに触発されたイタズラなのでは?
「帰ってればよかったのに」
「お前にもしものことがあったらどうするんだ!」
僕にもしもとかあるわけないだろ。
「どうもならないよ。……榊原さぁ」
「おう?」
「いつも美少女とか可愛いとかいうけど、なんかそれに影響されてる人がいるみたいなんだよね」
「ほう。ついにみんなにも分かってしまったらしいな。矢部ぴの魅力」
…………。
「やめて欲しいんだけど。前から可愛くないって言ってるし」
「そんな……」
「今日はもうついてこないで。また明日ね」
なんかイライラしてきた。榊原だけの冗談ならまだ許せてたのに。
「分かった。んじゃあまた明日な!」
こういう時はまとわりついてこないんだ。
別にいいけど。なんか、雨まで降ってきたし。
傘とかないのに。
「何をしているのですか。濡れてしまいますよ」
校門を出たら、背後から傘に入れてくれる人が現れた。
見た事ない人だ。綺麗だな。3年生かな。
髪の毛が銀色なのがすごい目立つけど、なんていうか、とても似合ってて、雰囲気が氷の花って感じ。
「ありがとうございます。でも、家近くなので」
「ではついていきます。体を冷やしてはいけませんから」
えぇ。
「そこまでしてもらわなくても」
「ではこの傘は差し上げます。それなら帰れるでしょう」
何を言ってるんだこの人。自分が濡れるのに。
「先輩が濡れちゃいますよ」
「構いません。私は不良なので、登校したくなければ休みます」
なにその理論。そもそも不良っぽくないのに。生真面目そうというか。
「いやいや……先輩は女子な訳ですし」
「では、私よりも年下の女子である、あなたが使うべきです」
ああ。本当に女に見えてるんだろうか。自分では普通の顔だと思うんだけど。
「先輩は初対面ですし、すいません。気遣ってくれてありがとうございます。急いでるので」
早歩きで先輩の傘から抜ける。
う、やっぱり寒い。でも、女扱いはされたくない。僕は男なんだから雨くらいで風邪なんて引かない。
でも、先輩は追いかけてきた。
「風邪を引きますよ」
「いえ、だから大丈夫です。僕は男なので」
「頑固者ですね。ですが、私は不良なので、根性と気合だけは負けるつもりがありません。あなたが拒否しても、私はあなたに傘をさします」
…………。変な先輩だ。
「何か、嫌なことでもあったのですか」
傘の中で黙々と歩いてたのに、話の振り方が突然すぎる。
でも先輩になら話してもいいのかもしれない。
「……その、最近女扱いされていて」
「女ではないのですか?」
「違います」
「そうですか」
聞く気あるのかなこの人
「私は校則違反をしているのですが、不良だと思ってもらえないようで困っています」
なんで不良だと思われたいんだろこの人。
「先輩はいい人だからじゃないですか。その髪の色も綺麗ですし、似合ってるし」
「ですが、校則違反のはずです」
「それはそうですけど……」
「ままならないものです」
…………。何が言いたいんだろう。
「私は高嶺の花、美人などと呼ばれる事を嫌悪しています」
「なんで……でも先輩は本当に」
「褒められていると思います。その好意は認めます。ですが、私はありのままを見てほしい。わがままかもしれません。しかし事実です」
靴の音と雨音が聞こえるのに、音もなく静かに思えてくる。先輩の声だけが音になって響いてくる。そんな感じ。
「貴方は可愛らしいと、私も思います。小さな子が不良校になんの用事があるのかと、そう思いました」
うち不良校だったんだ知らなかった。それらしい人見た事ないけど。
「可愛らしくないと思えと、そのように言われてもきっと難しいと思います」
それは分かる。
「明日は土曜日です。あなたの都合がいいのなら、明日あなたの家に迎えに行きます」
話が飛躍しすぎてて意味がわからない。
「デートをしましょう」
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