第5話 今では私もお爺さん。特別な恐怖を貴方に
「それじゃあ、ナな不思ギ、はじまるよ………」
「…………」
「あの……矢部さん……大丈夫?」
無理……。
「あはは……。いいよ、怖かったら手繋いでおく?あ。……ふふ」
「何二人で手繋いでイチャイチャしてるんだよぉ。そういう時はイチャイチャタイムっていう約束だろー!」
「榊原くんが七不思議やめたら離すんじゃないかな。ほら、頷いてる」
くたばれ榊原……。
「いや、美少女がくっついてるのはそれはそれで美味しいのでヨシ!やるぞー!がーはっはっはっは!!七不思議を一つ話すごとに明かりを一個つけていくぞ!」
「百物語の逆なんだね……」
「暗くしてくと一個消すたびに矢部が失神しそうだから逆につけていく事にしてみた」
「その配慮があるなら最初からつけっぱなしにしてあげればいいんじゃないかなー……」
「電気代がもったいないだろ!!」
「家主がかわいそうだよ!?ほらもうずっと震えて何も考えてなさそうな顔してるよ!」
「じゃあとりあえず1個目から行きまーす」
「強引!よしよし怖くないよ。ボクがいるよ」
「震えてる矢部……逆だったかもしれねぇ……」
「榊原くんが震えることあるの?」
「いや、山条ちゃんの代わりに俺が矢部に縋りつかれる未来があったと思うんだよ」
「く、黒幕なのに……?」
「……やはり混じり合えない、か」
「やめればいいと思うよ……」
「……。まず一つ目、これは結構有名なんだけどな。うちの学校には伝説のアイテムがあると言われてるんだ」
「伝説のアイテム?」
藁人形……。
「そう。伝説のアイテム。人の手を紐で結んだものらしくてな」
「え、人の手って……本物の?」
「ったりめぇよ!人の手といえば本物!きまってらぁ!」
「なんで江戸っ子になったの……」
「で、それを肩にかけた化け物がな。夜な夜な校庭を走り回るらしいんだ。奇声をあげながらな」
「矢部さん?大丈夫?おーい……」
「魂が抜けてるな。仕方ない、今のうちに矢部の部屋に行くか」
「こら、女の子の部屋に勝手に入っちゃダメだよ」
「録音するから、もう一回頼む」
「えぇ……」
「そうだ!今のうちに七不思議を消化すれば矢部の意識が戻った時に、七不思議終わったぞ?え、聞かせたかったんじゃなかったの?矢部のそんな姿……見てられなかったからよ。俺が終わらせといたぜ……。きゃー素敵さかきばらかっこいい!けっこんして!!ってなるに違いない」
「うん?うん……うん??そうだね!!??」
「とりあえず2から5まで一気に行くぜ!」
「お、おー!!いいぞー!!」
「二つ目ー!うちの学校には猫が集まるスポットがあって日向ぼっこしてる場所があるらしい!集まってる理由もわからないし不思議!」
「和むね!猫可愛いもんね!」
「三つ目定期的に餌付けされてる生徒がいるー!ちなみに教師からもなにかと理由をつけて餌付けされてるらしい」
「えー、何それ誰のこと?きになるなー」
「矢部だが?」
「不思議じゃなくなっちゃったけど!?」
「なんで餌付けされてるのか気づいてないのが不思議」
「そっち!?本人の前で話していいのかなそれ!?」
「不審者に飴ちゃんで釣られそうで警察は警戒を強めていく方針です」
「が、がんばれ警察……」
「四つ目ー!購買に伝説の美味いパン屋があるらしいー!ちなみに出す時間は未定で朝に売られてるなんてこともあるらしい」
「へーそうなんだ。七不思議っていうか噂じゃない?」
「なんで売れそうなものを昼飯前に出さないのか不思議」
「経営者目線だね!?というかネタ切れしてきてる?」
「いやしてない。最後五つ目ー!昨日茶柱が立ったんだ。不思議だな?」
「不思議だけど!学校関係ないよ!あとやっぱりネタ切れしてるよね!」
何やってるんだ榊原……。
「お、矢部が気づいた。大丈夫か矢部?揉んでいいか?」
手をわきわきするな。
「こら」
山条くんが榊原にチョップした。なんで打たれて嬉しそうなんだよ。
というか、男の胸揉んでも嬉しくないだろ。
「矢部、お前が失神してる間に」
「してない」
「七不思議5個目まで終わったぞ」
「おお」
がらにもなくへんな感嘆がもれてしまった。
「だから残ってるのはホラ研が興奮してたやつだけだぞ」
「なんでそれを残しちゃったのー!!」
「ショートケーキのいちごは最後に食べたいから!」
「矢部さんはいちごを失った状態だよ!かわいそうだよ!!」
「矢部……この飴余ったからやるよ」
なんで突然飴。
「孫にあげるのはヴェルタースオリジナル。なぜなら矢部もまた、特別な存在だから。これ食べたらちゃんと七不思議聞くんだぞ?」
孫じゃないよ。僕は飴を見つめた。
「ありがとう」
お礼は言ったけど、今そんなに食べたい気分ではない。ついでに怖い話も聞きたくない。でもこれがあとからポケットから出てきて賞味期限がわからなくて食べるのを躊躇するのも面倒。もらったからには食べないともったいないし……。
「矢部さん食べない方がいいよ……。ボクがあとで袋で買ってあげるから……」
「あーそういう反則いけないんだー!」
「矢部さんが怖がってかわいそうだよ!」
「ちなみにうちの教師陣も矢部が餌付けされないように餌付けの倍のお菓子で釣ってるんだ」
「落ち着いてるのに食い意地張ってるんだね……」
「別に……もらったら食べなきゃもったいないから……」
「あ、山条ちゃんが矢部を怒らせた」
怒ってない。食べちゃいけない飴なんて飴が可哀想だし榊原にも悪いから食べる。
「あ、あーー〜〜……なんで……」
「矢部は食い意地張ってるっていうと怒るぞ。実際あんまり食べないからな。家で保管してるらしい」
「リスみたいだね……」
「それもいうと怒るぞ」
「何その地雷!!」
「人の好意を無下にしないのが矢部の可愛いとこだからな……」
「あー……あーー……」
「というわけで怖い話あと二個頑張って聞こうな」
「うん」
「あら素直。食べてる間は素直なんだよ。可愛いな部屋入ってもいい?飴のお礼!飴のお礼!」
「こら!」
「家に入れただろ」
「通行料とられたぜ……。さて、ほっこりしてることだし残り2個言ってくぞ!」
やはりヴェルタースオリジナルは美味しい。
「一つ目の話の続きなんだがな、うちの学校四階建てなんだけど、四階って全部使われてないんだ」
「あー。そうなんだ」
「ま、実際は全部準備室って扱いなんだけどな。で、四階にはな、怪物が棲みついてるんだと」
「え、何それ……」
「昼は四階、夜は校庭にいるってわけだ。じゃあ夕方みんなが下校する時はどこにいると思う?」
「え……なになにこわい。天井裏とか?」
「残念。生徒になりすまして下の階に降りるんだってよ。なりすまされた生徒は、校庭のどこかに埋められてるって話だ」
「ひぇ……こわー……。あれ矢部さん?その……大丈夫?」
むり
「あの……そんな胸に抱きつかれるのはちょっと恥ずかしいかなー……」
さかきばかこ○す……こ○す……。
あ、でもなんか……いい匂いがする。あと心なしかてのあたりから覚えのない感触を感じる。揉める?
「あのー……恥ずかしいから揉まないでほしいな……。ボク男だから得しない……よ?あと榊原くん撮らないで」
「あ、はい」
山条くんからドスの効いたマジトーンの拒否にあの榊原が黙った。
僕が離れると僕を撫でる山条くん。なぜなでる。
「じゃあ最後のやついかせていただきますぅ……」
「わー」
怖かったらどうしよう。
「大丈夫だよ矢部さん。怖くないのにしてねって言ったから。ね?」
へこへこする榊原。
「へい!もちろんですよだんな!
これは学校内ってだけじゃないんだがな。この街にはでっかい組織があるらしい。Y総会って言ってな。
それはもうデカくて……デカいらしい」
全然怖くない。
「あれ涙が出てくる。どうして?」
「榊原くん……。あれが安心した笑顔だよ……」
「俺は……俺は矢部になんて酷いことをしてたんだ。矢部のあんな笑顔を隠すようなことをして、俺は……矢部ラー失格だ」
絶望する榊原。矢部ラーってなんだよ
「今回は完敗よ転校生……。でもね。本当に矢部のこと、分かってるのはアタイなんだからね!負けない!それじゃあね!!そろそろ帰らないとママに怒られちゃう!」
「バイバイ榊原」
「またねー。あ、矢部さんちょっとトイレ借りていい?」
「いいよ」
「ありがと」
我慢してたのかな。
「バイバイ矢部ぇ!いい子にしてるんでちゅよー」
あ、そうだ思い出した。
「榊原」
「どうした?」
僕は振り返ろうとする榊原の脇腹に全力の一撃パンチをした。
「がはっ……!榊原死すとも自由は死せず……」
とりあえずこれでせいせいしたのであとは追い出した。
「こんなDbD耐えられません!お暇をいただきます!!」
DVの間違いだと思う。最後まで榊原は榊原だと思う。
とりあえず山条くんが来るまでに部屋で着替えよう。
「あ」
「え」
部屋を開けたとき、そこにいたのは、紛れもなく山条くんだった。
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