毒舌かわいい矢部さんは男の娘!!
明日野 望
第1話エクササイズに終わりはない。人は成長を続ける生き物だから……
「ノリって大事だと思うんだよな」
「あ?」
人がスマホ見てる時になんか語り出したからヤンキーみたいな声が出た。
「グレちゃったのか矢部?お母さんそんなこと言う子に育てた覚えありませんよ!」
「育てられてないから。で、なんだって?」
「ノリだよノリ。その辺でええじゃないか踊ってたら踊りたくなるだろ?」
「ならないけど」
「そういうとこやぞ」
どういうことだよ。
「オレの座右の銘は『ノリが百割』だからな」
頭悪そう。
「オレはお前より成績いいぞ!」
人の心を読むな。実際そうだから二倍腹立つ。
「まぁというわけで矢部。踊ろうぜ」
「やだよ」
「じゃあ先にオレが踊ってみせるからその後に続けよな!」
「だからやだよ」
パァンという小気味のいい手拍子からリズムをとりつつ踊り出す榊原。なんだこいつ。
「さぁ矢部も一緒にー!」
スマホを見させろ。
「ハァイ!ハハァイ!ハイハイハーイ!さぁいい動きだぞー!ほらリズムに乗ってー!」
僕は放課後に何を見せられてるんだろうか。
「さぁ次は太ももに効くエクササイズだー!」
インストラクター憑依しはじめたな。
「いいぞー!いい動きだぞー!さぁあと少しでフィニッシュだー!!あと一息頑張ってー!」
どうでもいいけどこいつ人が眺めてるだけなのにこのノリ維持し続けてるのすごいな。
「おーけーラスト10秒!さぁカウントダウンするぞー!!10!9!8!7!6!5!4!3!2!1!」
やっと終わった……。
「0.9!!だれが終わりだと言ったーーー!!!!そんな事だから痩せられないんだ!!」
突然どうした。
「たるみを思い出せ!そんなプルプルでいいのか!!いやだろう!もっと痩せたい!もっと綺麗になりたい!そうだろう!こんなところで諦めていいのか!!まだやれる!もっと本気出せ!!さぁ次こそほんとのラストだ!」
榊原には何が見えてるんだろう。
「さぁ!10!9!8!7!6!5!4!3!2!…………1!さぁみんなも一緒にーー!!」
「ZEROーーーーーーーー!!!!」
最後だけ発音がおかしいんだけど。
「ふぅーーーー!いい汗かいたな!!な?矢部」
「うん。いい汗かいたかいた」
「見てるだけでか?」
突然正気に帰るな。
「飽きたし帰っていい?」
「飽きたらポイってわけ?矢部ぴにとってアタシってなんなのよ!遊びだったの!?」
「うん。じゃ」
あえてツッコミは入れない。めんどくさいから。
「おいおいおいおいおーーい!!そこは誰が彼氏やねん!みたいなツッコミが欲しいとこやろがーーい!」
「帰っていい?」
「うんいいよ。矢部くんまた明日遊ぼうね!!」
小学生のモノマネみたいなウザい口調だけど帰れるのでほっとこう。
「あたしまーつーわ!いつまでもまーつーわ!!」
僕は靴を片方だけ脱いで投げつけた。ウザかったから。
「あぁん♡ありがとうございます!!」
最近ドMに目覚めたのかここ二週間くらいこうしないと黙らない。
「とりあえず靴返して」
「ご主人様がトビーめに靴をくださった!!」
なんだこいつ。
「返せよ。使わないだろ……」
「くんかくんかするが」
「やめろ気持ち悪い」
「キモいと気持ち悪いって気持ち悪いって言われる方が気持ちこもっててより快感を覚えるよな」
なんだその気持ち悪すぎる豆知識。
「はぁ……まぁいいや、じゃあ帰る」
付き合ってるのめんどくさくなってきた。
榊原に背を向けたとたん、奴はダッシュして、僕のまえに背を向けてしゃがみ込んできた。
「足、ケガしてんだろ?乗れよ」
してないよ。
「歩けるから靴返せ」
「1日だけ使わせてほしい」
履けないだろ。
「何に使うんだよ……別にいいけど壊すなよ」
「何にだなんてそんな……。ふふ……」
「なんかキモいからやっぱ返せ」
「キモいは不意打ちっぽく言われるとドキッとしてより気持ちいいんだよな」
知らないよ。気持ちいいんだよな(キリッ)じゃないんだよ。
とりあえず背中には乗る。
「おっしゃあ!いくぞー!!!」
「家」
「オレの?」
「なんでお前の家に行くんだよ僕の家」
「今日アタシの家……親いないんだ……」
「カップ麺でも食ってろ」
「独身サラリマンの気持ち体験ごっこは悲しくなってくるぞ」
「知らないよ」
歩くのめんどくさいし靴下汚れるから背負われてるけどこいつ僕の荷物と自分の荷物まで持ってて結構な速度で走ってるの割と化け物だな。ゴリラ男。
靴返せばそんなことしなくていいのに、そんなに返したくないのか。
「ハァ……ハァ……!」
さすがに息切れもするか。
「矢部と密着してる……!!」
なんだこいつ……。
「なあ榊原……。僕が女だったら通報してるぞ?」
「オイラはホモじゃねえ!!」
なんのネタなんだよそれは。
「略してオイモ」
いらない略語を作るな。ほんとにこいつノリだけで喋ってるな。
「オレ達の業界で矢部と接触するのはご褒美だからな」
どの業界か知らないけどさっさと潰れてほしい。
「さぁついたぞ!!」
とりあえず靴履いてる足だけで着地。
「…………」
「…………」
僕と榊原はしばらく見つめあっていた。
「靴返せ」
「…………」
目をそらすな。
「矢部……お前にこいつを預ける。俺の大事な靴だ。いつか、きっと返しに来い。立派な美少女になってな」
頭に乗せるな○すぞ。そしてお前のじゃない。
「……まぁ、運んでくれたから許してやるよ」
「矢部、チョロいな」
もう一度靴を投げた。
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