2:静かに消えたいのだ
ことの発端はそう、僕と彼女が仕事帰りに近くの駅でおち合う約束をしたことが始まりだった。その日僕は、仕事がうまくいってなかったこともあり、少し苛ついていた。
30分たったそれだけ遅れただけの彼女に強く当たってしまったのだ。仕事の都合で彼女が遅れることなんて、今回だけではなかったというのに。
「遅れるなら事前に連絡してよ。心配したじゃないか!」
心配したという理由で自分の怒りを正当化し、彼女を攻め立てた。
あの時、あの場所で僕が許していればよかったのだ。いや、そもそも許すも何も彼女が悪かったわけではなかったというのに。
だというのに、僕は彼女の謝罪を聞かなかった。
「どうしていつもこうなんだ。」
そう言い放ち、彼女のほうを見向きもせずに横断歩道のほうに歩いて行った。間が悪かった。いつも彼女と一緒にいるときは、信号が点滅していたら二人で談笑でもしながら時間をつぶしていた。
・・・何時もなら、信号を無視して突っ込んで車もいなかったはずなのだ。
突然の事態に対処できず僕はその場から動くことができなかった。
「修君!!」
今まで聞いたことがなかったくらいの大きさで僕の名前を呼ぶ彼女。
前に突き飛ばされる僕。あまりにも一瞬の出来事だった。
数瞬何が起こったか、理解できずただただ彼女を抱き抱えることしかできなかった僕に、彼女はかすれそうな声で、
「本当に・・・・ごめ・・ん。」
そう言った。
あの時、僕が少しでも寛容であれば。
あの時、僕が彼女の言葉に少しでも耳を傾けていれば。
あの時、少しでも立ち止まってさえいれば。
何度悔いたか分からない。でも、彼女にもう会えないこんな世界なら僕は、誰からも忘れ去られて静かに消えたいのだ。
気がつけばあの日彼女と行く予定だった、桜並木のしたにいた。春は過ぎ去りもう青々とした葉をしげらせている。
持参した椅子を足場にし、そのうちの一本の枝に縄をくくりつけた。昔テレビで見た首吊り処刑のワンシーンみたいだ。そんなことをぼんやりと思った。
平日の真っ昼間であるからか、回りを見渡しても誰もいない。僕は静かに深呼吸をして目を閉じ、縄を首もとに当てた。
足場にしていた椅子を蹴飛ばそうとした、その時だった。
「少しお待ちいただいてもよろしいですか?あなた宛に手紙を預かっているものでして。」
そんな声がして目を開けると、何処からやってきたのか大学生くらいの男が目の前にいた。
「なに、怪しいものではありませんよ。ただあなたの彼女だった
そう言って目の前の男はちょいちょいとこちらを手招きするのだった。
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