第7話
成り行きで王弟殿下の屋敷を再び訪れることになった私は、応接間でお茶をいただきながら殿下と公爵様が屋敷にいらっしゃった経緯を伺いました。
「あの後、伯爵家の事情を公爵に伝えに行った。実は公爵家には、イザベラ夫人から今までも時折文が来ていたようなのだが、公爵はどうやら些末事と真面目に相手していなかったらしい。私が貴女から聞いた話を伝えて、それでやっと伯爵のところに事情を訊きに行こうという話になったんだ。私兵を連れて行ったのは……まあ余興の一つだ」
「そうだったのですね。突然いらしたものですから、私は本当に驚いてしまったんですよ」
嬉しい方の驚きです、と付け加えて私は笑みを浮かべました。殿下と公爵様が来てくださらなかったら、今頃どうなっていたことか……。
それにしても、あの騒ぎを引き起こした当事者の方々(私も当事者といえば当事者ですが)はどうなるのでしょう。
「公爵がイザベラ夫人から事情を聞き、しかるべき者にしかるべき処分が与えられる。貴女も含めた他の夫人は、巻き込まれただけのようだから処分が下されることはないだろう。イザベラ夫人が真に殺人未遂を犯したのか、アイリーン夫人が虚偽の発言をしたのかは後々判明する事だろうが、話を聞く限りだとアイリーン夫人の方に罰が与えられるだろう」
殺人未遂の罪を捏造したとあればただでは済みません。もちろん、旦那様もお咎めなしとはいかないでしょう。
そこで、私の頭の中に一つの疑問が浮かびました。話の流れでは、殿下と騒動との関わりは私との三日前の会話しかありません。
「つかぬことをお聞きしますが、なぜ伯爵邸にいらっしゃったのですか? 私一人の頼みがあったからというわけでもないでしょうから……」
「ん? 貴女が頼んできたからに決まっているだろう。公爵とはそれなりに親しいが、伯爵は顔を知っている程度だからね。貴女のことがなければ今回のことはひっそりと闇に葬られていたかもしれないな」
冗談のつもりではなさそうです。それほどまでに私の作品を好いてくださるのはとても嬉しいことです。
騒動についての話も終わったところで、殿下はさて、と話題を変えました。
「貴女のことは作品しか知らなくてね。滞在してくれるというのだから、改めて自己紹介を。私はフリードリヒ・フォン・シューリンデン、知っての通り王弟で財務長官の地位に就いている。年齢は二十七、よろしく頼むよ」
「それでは私の方からも改めて。テオドラ・コムネア・ヴァルトベルク……いえ、パライオロジアと申します。人形師をしており、歳は二十になります。こちらこそ、よろしくお願いいたします」
なんだかお見合いでもしているようです。
名乗ると、殿下は少し呆気に取られたような表情をなさっていました。
「……失礼ながら、童顔なのだと思っていた。腕前があまりにも見事なものだから……」
もっと年上に思われていたようです。
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