設定の役割と使い方

 皆さん、物語を描き始めようとした時に、前もって色々なものを準備しますよね? キャラクターや世界観、そして舞台となる世界そのもの。そうしたものを細部まで掘り下げたものを、ざっくばらんに「」と呼びます。

 そのキャラの生い立ちや性格、ヴィジュアルや得意武器、戦い方は?

 その世界の政治体系、地理や歴史、宗教観や文明レベルは?

 そうしたものを考える作業は、とても楽しくもあります。

 これぞまさしく、創作……自分で新しい世界を作っていくのですから。


 ですが、実は設定というのは、物語の本質とは一線を画した場所に存在します。

 例えばそうですね……ガノタガンダムオタクらしく、ガンダムに例えてお話しましょう。ここを御覧ごらんの方は全員、名前くらいは聞いたことがあると思います。機動戦士ガンダムというロボットアニメがあって、その主役メカであるガンダムは物凄く高性能な戦闘ロボットです。

 そのガンダム、いわゆるRX-78-2ガンダムの設定を少し書き出してみましょう。


1.試作実験機故に、派手なテストカラーで塗られている。

2.特殊合金を用いた装甲で、単騎で突出した戦闘力を持つ高性能機である。

3.戦艦の主砲並の威力を持つ、ビームライフルの運用が初期では唯一可能。

4.胴体部に収められた操縦席コアブロックは、脱出等の時に戦闘機に変形する。

5.近接格闘戦に主眼を置かれており、多種多様な格闘武器を使いこなす。

6.主人公アムロ・レイの父親、テム・レイが設計した。

7.モビルスーツと総称で呼ばれるロボット兵器である。

8.実はアニメの劇中には登場しないが、沢山の同型機が存在する。


 まあ、他にも細々とあるんですが、ざっとこんなものだと思います。

 さて、この中に「」が混じってますが、それはどれでしょうか。そう……ここでえて自分は言いたいのです。


 小説とは、ドラマやストーリーを読ませるものである。


 ドラマやストーリーを盛り上げ、ディティールアップするために設定はある。


 あなたは今、ないほうがいい設定を物語にねじ込んでいませんか?


 意図いとせず「」を作っていないでしょうか。


 本当に小説に必要なのは「」なのです。


 さあ、それではガンダムの設定をおさらいしてみましょう。

 まず、1です。あのド派手なトリコロールカラーです。何故なぜ、戦争に使う兵器があんな目立つカラーリングなんでしょうか。ぶっちゃけて言うと、ガンダムの玩具を売るために、玩具メーカーの都合で決まった色と言われています(諸説アリ)それを「試作実験機だから、デモンストレーションカラーなんだよ」という、実際の戦闘機開発等で用いられる「業界のちょっとしたエピソード」を載せて、リアリティ演出に使ってます。マイナスをプラスに転換した、素晴らしい機転ですね。こういう小さなリアリティの積み重ねが、ガンダムを「リアルロボットアニメの金字塔」にしたんです。

 2と3、これも必要な設定です。ガンダムという兵器、そしてそのキャラクター性を支える大事な要素だからです。特別な性能を持ち、この世にただ一つのスーパーロボット、ガンダム。それを偶然、設計者の息子である民間人が乗る羽目はめになってしまう。とても大事な、物語の屋台骨を支える設定ですね。

 4は、これもガンダムの玩具にギミックが欲しくて盛り込まれた設定で、実は不要に見えました。実際、平成になってから漫画化された機動戦士ガンダムORIGINオリジンでは、初期のガンダムにコアブロックシステムがありません。いらない設定だからですが……実はこのコアブロックシステム、ガンダムという物語のラストシーンには絶対に必要なガジェットなんですね。そう、爆発したア・バオア・クーからの脱出に使われるシーンです。全ての戦いが終わって、主人公が劇的な脱出を成功させ、そして最後にはガンダムで唯一残ったパーツであるコアファイターとも決別する。ガンダムよりも、仲間たちを選ぶ。このシーンが大事なので、ORIGINでも中盤でガンダムにコアブロックシステムが搭載されました。

 少し駆け足になりますが、5は2と3に近い設定で、ガンダムというキャラクターの活躍する状況を明確にしています。アニメのガンダムは、ロボットアニメの中でも殺陣たてのシーンに画期的な演出が多数使われ話題になりました。6は、主人公とガンダムに因縁いんねんふくませ、ともに一人の男(テム・レイ)から生まれた兄弟であるかのような関係性を匂わせています。主人公にとってガンダムは、親の形見であり、自分を戦争に縛り付ける親の呪いでもあります。そして7、この「敵も味方もモビルスーツという共通フォーマットで戦うアニメ」という概念が、リアルロボット路線と呼ばれるムーブメントを生み出しました。スーパーロボットと機械獣、マグマ獣、メガノイドではありません。敵も味方もモビルスーツ、同じロボットなのです。


 あ、さて……長々と話しましたが、8はどうでしょう? 実際、一年戦争と呼ばれるアニメの機動戦士ガンダムの作中で、主人公のガンダム以外に10機以上のガンダムタイプが存在したということになってます。

 後付設定ですが、今はその大半が実在した公式設定として認識されています。

 ですが、断言しましょう。

 いわゆる1stファーストガンダム、機動戦士ガンダムの物語には不要な設定です。

 その理由を説明しますね。まず、ガンダムという唯一無二オンリーワンのロボット、そのキャラクター性が損なわれます。無双の強さを見せ、時に苦戦しながらも戦ってゆくガンダム……たった一機しかないからこそ、前半はこれを味方の総司令部に運ぶというロードムービー型のシナリオになってます。実戦を経験した最新鋭の試作実験機、無敵のガンダムは

 見る側に「沢山あるんだから、アムロが頑張らなくてもいいじゃん」と思わせてはいけないんですね。物語の根底が破綻してしまいます。


 そんな訳で、設定は物語に組み込む前に、各設定が物語にプラスになっているか、マイナスになってはいないかを吟味ぎんみしましょう。設定同士がバッティングをしてることもあるので、そこも注意ですね。

 そして、設定のための設定があったら、バッサリと切り捨てましょう。

 ここでいう切り捨てとは「使」ということです。あくまで小説には、物語を盛り上げる設定、世界観をわかりやすく説明する設定のみを組み込みましょう。


 とまあ、そんなことを言っても……実は「」というのがながやんの持論です。物語に実装してない設定も実は、とても大切なのです。

 例えば、主人公がアニメになった時の声優を考えておく。

 主人公の必殺技や、そのモーションを想像してみる。

 ヒロインのお気に入りのスイーツや、パジャマや水着なんかも設定しておく。

 舞台となる異世界の地図を書いたり、歴史や宗教といったものを作る。

 無駄ではありません。

 決して無駄とは言わせません。

 それらは小説の中には登場しないかもしれませんが、作者という物語の管理者かみにとっては大事なことなんです。設定の全ては、作者にとって「これから構築する世界の一部」です。その全てを読者には見せられないけど、作者であるあなたはどんどん掘り下げて奥行きを与え、広げてゆくことができるんです。そうした思い入れのある作業からは「使」が生まれてくることもあるんですから。

 それに、表に出ない設定も、それを生み出した作者さんのモチベーションを支えてくれることもあります。たとえ執筆時に使わなくても、生み出した設定は全て作者の財産ですね。


 それに、昨今は「ひたすら設定が重い、要不要を問わず設定を盛りまくる作品」というのが、それ自体が作風となっている作品が存在します。有名なものですと『ファイブスター物語(以下FSS)』と『新世紀エヴァンゲリオン(以下エヴァ)』ですね。

 FSSは、膨大なイラストと設定が存在します。しかし、その中で物語に登場するものは半分もありません。初めてデザインや設定が公開されてから、漫画本編に登場するまで十年以上かかるなんてこともザラです。

 ただ、圧倒的な情報量それ自体が、FSSというコンテンツの芸風なんです。それを余さず拾って覚えて、どこかで漫画本編とリンクしたり、思わぬ形で登場するというのを楽しむ……FSSの設定ラッシュは『読者に埋められた喜びの時限爆弾』ですね。


 対して、エヴァではまた違う手法が用いられています。今年で生まれて四半世紀、いよいよ完結が間近となったエヴァですが……TV版放送当時は、今の鬼滅の刃ブームに勝るとも劣らぬ熱狂を社会にもたらしました。ファッション雑誌の表紙をシンジ君が飾ったり、無数の謎本、解体新書、果てはトンデモ本までが売れまくったのです。

 そんなエヴァは『』という作風で、物語へとぐんぐん見る者を引き込みました。死海文書しかいもんじょ、ガフの部屋、黒い月、人類補完計画……誰もがその意味を知りたくて、ミステリアスな世界観を探索した訳です。実は個人的には、こうした設定の中身は実際に存在しなくてもよかった、存在の有無と別に『設定を匂わせる』ことこそが、エヴァがもっとも上手かった部分ではないかと思います。エヴァの設定はその大半が多分『作品に埋められたなにかを、見る側がワクワクしながら掘り出す時限爆弾かもしれないもの』でしょうね。


 最後に、ここでべたことは全て、ながやんの価値観で構成された我流の創作論理です。正解でもないし、教科書でもありません。なので、斜め読みしてフーン! くらいで丁度いいと思いますよ。

 あなはた、あなた自身を一番に信じて創作をしてください。

 プロになるまでは、それが一番です。

 信じる自分を常にアップデートしていけば、結果的に創作の幅は広がるんですよね。だから、アンテナは広げつつ、常に自分という基準を持って無数のものに触れるのがいいと思いますよん♪

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