カタナカタリ
シモルカー
序:この世の沙汰は金次第
人は、「本物」を愛している――。
*
時は、『大正浪漫期』
「大政奉還」以降、『大日本帝国』は西洋文化を取り入れ、多くの芸術品で溢れていた。
昔ながらの日本独自の「旧芸術」と、
西洋の影響を受けて独自の変化を遂げた「第二芸術」、
そして西洋から流れてきた「新芸術」。
多種多様な芸術に、人々は心を奪われた。
街では歌劇が開かれ、小説や詩が思想を詠い――和と洋が混じり合った文化時代。
ひと昔前までは芸術は上級階級の道楽であり、庶民が触れる機会すらなかったが――今は違う。
何故なら、芸術はあらゆる点において平等だからだ。
そして、人々は芸術を持って、己の思想を訴えるようになった。
芸術を持って芸術を制し、芸術を持って社会へ訴え、芸術こそが魂の象徴。
人の心を動かすのは、いつの時代でもどこの国でも――人の生み出す〝何か〟なのだから。
大正浪漫期。
後に『大芸術時代』と呼ばれるこの時代では、全ては「芸術」が語る。
*
地獄の沙汰は金次第、という言葉を聞いた事があるだろうか。
よくお金が全てじゃない、お金で買えないものもない、という人がいるが、あれは違う。
結局は金が全て。金は天下の回りものであり、世界中のありとあらゆるものにはそれ相応の値打ちがつけられる。それが――命であっても。
「えー。それでは続きましてこちらの商品です! 年齢は十歳前後、病一つない健康体。東洋の少女です!」
男の声に反応し、会場内の至る所から歓声が飛び交う。
興味や奇異の視線が一斉に注がれ、やけに息苦しい。呼吸が、上手く出来ない。
「おい、なんか具合悪そうだが、本当に役に立つのか?」「それに、随分とやせこけて……見苦しいわ。私は、遠慮しておくわ」「健康体だったら良かったんだが……今回は、俺も」
次々に、不満そうな声が漏れた。それに慌てた男達が、長い棒で牢の中をつっつく。
そして、客には聞こえない声で命令した。
「おい、何しているんだ。しっかりしろ。健康診断でも異常なし。お前は、健康体だ。仮病を使うな。どのみち、お前は逃げられないのだから、せいぜい商品としての役目を果たせ」
上手く呼吸が出来ない。視界もだんだん暗くなり、先程までうるさいくらい響いていた耳障りな声も、遠くなっていき――
「はい、大変失礼しました! 少しばかり緊張しているようですが、異常なしです。こちら、正真正銘の健康体です。どなたか、落札者はいませんか! こちら、健康体です。臓器も全て無事であり……」
男の声は少しの焦りが滲み出ていた。
男はしぶしぶ次の商品へ移そうと、車輪付きの檻を移動させようとした。
が、次の瞬間――その場には不釣り合いな凛とした声が響いた。
「待て! 落札者なら、ここにいるぞ。いらぬと言うなら、その娘、我が落札しよう。落札額は……」
――そう、この世の沙汰も、金次第だ。
*
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