ゆめをみる人

津田善哉

 僕の人生は詰んでいる。

 いつからか誕生日に自分がいま何歳なのか更新することを止めた。いつからか学校を卒業していま何年経つのか計算することを止めた。いつからか且つての級友がいまどう過ごしているのか想像することを止めた。


 いまとは違う、どこか別の世界へ。

 いまとは違う、僕が必要とされる世界へ。

 いまとは違う、新しい自分に成れる世界へ。



 毎日同じ夢を見る。夢の中で目を覚ますと僕は、いつも海の中を漂っている。一面真っ青の綺麗な海だ。どちらが上か下か、横かも分からず海中で藻掻く僕は、ある一方から光が差しているのを見つける。

 光源が段々と僕へ近づいてくる。そして女性の声で僕に語りかけてくるのだ。


 やっと還ってきたか。目を覚ますんだ…。

 ここがお前の、あるべき世界なのだから…。



 やがて光源が僕の身体全体を包み込むと、決まってそこで目を覚ますのだ。そこにはいつも通りの世界。淀んだ空気の、時が止まったままの僕の部屋。

 僕はこれがただの夢とは思えなかった。僕がいまいる世界は、本来あるべき世界ではなく、この夢でみる世界こそが現実で、僕が還るべき世界なのではないか。この時が止まった部屋こそが夢ではないのか。

 あの女性の声は僕を必要としている。そう思えてならなかった。

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