第四皇女様は脱走をお望みです

猫町大五

第1話

「・・・それで、次の仕事というのは」

『実にイージーだよ。隣々国、王国皇女様を営利誘拐だ』

「・・・今何と?」


 電話口の向こうへ、自分は素っ頓狂な声を投げた。


『ああ心配するな。第四皇女様だが、王位継承権はないんだ』

「そういうことでは」

『分かってるよ、大丈夫。これ、“皇女様直々の”ご依頼だから』


 電話口の向こう、楽しそうな少女の声。・・・相変わらず理解不能な。


「はあ」

『彼女、側室の愛人の子らしくてね。現状、監禁状態にあるらしいんだ』

「・・・要はそこから出してくれと?」

『流石の君だ、話が早い。周辺警護が激しくて、文字通りの虜の身って奴だよ』


 やたらと楽しそうだ。


「どうやって突破しろと」

『いつも通りで良いよ、強行突破で』

「いやそれは」

『大丈夫。・・・これ、二重依頼でもあるんだ』


 ・・・二重依頼?


『そこを警護してるのは、王国軍部の過激派達。ついこの間、その王国の内戦が終わったのは知ってるだろう?・・・連中、まだ戦争がしたりないってさ』


 ――つまり。


「・・・要約しても?」

『大いに結構』

「・・・今回の依頼者は、王国の――恐らく中心部。それと、ターゲットたる第四皇女様の二つ。そして目的は、ターゲットの奪取とその警護部隊の・・・抹殺?」


 瞬間、息が呑まれ――


『・・・ご名答!!いやあ良い、やっぱり君は有能が過ぎる!我が社には勿体ない!!』

「・・・はあ」

『だが惜しいな、“抹殺”じゃない。きっちりと“殲滅”してくれと』

「・・・・・・はあ」

『そういうことだ、分かったな!出発は今日午前六時、粗方装備は揃えておくから!それまで精々英気を養っておきたまえ、以上!』


 電話が切れる。


「・・・・・・眠れるわけがねえ」


 現在時刻――午前四時。髪を掻き毟ると、見慣れた白髪が幾つか落ちる。もう、冬が来ようとしている。自分の何度目かになるかも分からない、『お仕事』もだ。

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第四皇女様は脱走をお望みです 猫町大五 @zack0913

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