こころとからだ
熊野一白
わたし
...
ものごごろが付いたころからここにいた。小さな世界がすべてだと疑うこともせず、自分は幸せなのだとそれだけを糧に、無邪気に生きていた。
はじめて外に行ったとき、自分の世界は外にもあるのだと知った。見るもの、触れる空気、すべてが私にとって新しかった。
自分が変わると周りも変わると知った時、いつまでも支えがあるわけではないと知った。どんな人も自分が一番。
怖く、辛い時、周りを頼るべきではないと知った。上辺だけで彼らは満足し、見て見ぬふりをするのだ。
学校が終わり、帰宅する。よく晴れた日だったか、雨の日だったかわからない。誰の顔も見ずにまっすぐ家に帰った。鍵を開けて、扉を開けると、「ただいま」と言った。返事はない。ひとりの家で重たい荷物を降ろし、台所にある包丁を取り出し、胸に突きつける。それでようやく、自分は生きているのだと実感する。まだ逃げてない。大丈夫。そう何度も、自分に言い聞かせた。晴れた日には外で遊ぶのが好きだった。勉強は嫌いで、いつも逃げ出して、怒られた。でも、いつの間にか、外で遊ぶこともあまりしなくなった。相変わらず逃げ出した勉強も怒り顔より、呆れ顔が目に付くようになった。投げかけた笑顔は投げつける笑顔になって帰ってきた。でも、ひとりは嫌いだから、何時もいてくれるひとが欲しかった。楽しい時も、悲しい時も隣にいてくれるひと。でも、今はひとり。時間が経てば、母も兄弟も帰ってくる。また、けんかが始まり、貼り付けた笑顔をぶら下げて「これでいい」という自分を頼りにバランスゲームをするのだ。バランスを崩して雫を落とすと、心配する声か、あきれた声かさげすむ声が聞こえてくる。だから、泣かないようにした。泣いても理由は言わなかった。だから、ひとりで泣いた。涙が枯れるまで、泣き疲れるまで。
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