ふりさけみる

 

 この言葉は、たいてい「振り放け見る」と漢字が当てられます。意味は「首を振り動かし、遠くを眺める」で、つまりは「見る」行為の一種なのですが、とても長ったらしく、何とも大仰な印象が感じられます。そういうわけですから、この語感に従って、この語を特別な語として呪文などに用いることができそうです。あるいは、特定の神や貴族など専用の、敬意の高い語として使うのもいいですね。今回はこの語の使い道を考えていきます。



①枕詞的な呪文として

 さて、本来であれば、この語は「天の原=大空」という語に導かれる、枕詞です。そこから考えると、「大空、天、大海、遠くまで」というような意味にかかって、魔法を使役する文句として使えそうですね。この語があれば、魔法の影響範囲が拡張されるとか。例えば

・雨を降らす呪文

:ひさかたのあめゆ降れりな雨よ土をしののに濡らすこの雨

=ひさかたの空から降る水である雨よ、土をしっとり濡らすこの雨よふれ。

であれば、これの上位互換である呪文は

・雨を広範囲に降らす呪文

:ひさかたの天の原ゆ降り雨ふりさけみればいや広し大土おほつちほとほと水の受け口

=ひさかたの大空から降る水である雨よ、振り仰いで見るように広大なこの大地が、しっとりと濡れる水の受け口と見紛うほどに降れ。

 という具合になりましょう。この場合だとふりさけみるを挿入した以外にも結構変わっていますが、呪文の上につけるだけでも良いでしょう。ただ、付けるだけでいいとなると、これまたひょんなことからこの語を知ってしまった人に強大な力が宿る可能性があるので、そこは注意が必要ですね。



②専用語として

 「ふり」とあるわけですから、とにかくこの語には、何かを振るという行為があるのです。現実的には首を振るわけですが、例えばこれを、「剣を振るう」としたらどうでしょう。夜の闇を、剣でさいて光をもたらすとかなれば、神業です。

宵闇よいやみを振り裂け見ればつるぎ舞ふとほ空先そらさき八重やへの輝き

=(神が)この夜の闇を剣を振るって割くと、遠くの空までとても輝く

 とか使うなら、歌われているのは神だなとわかります。このまま夜を照らす呪文にしてもいいですね。

 または、「振り放け見る」の大仰な感覚から、帝、天皇、王専用にしてもいいですね。

・戦の前触れを感じさせぬ静けさ。そんなのどかな原をふりさけみた。

 という一文も、そう設定すれば、これは帝の行動なのだとわかります。ちなみに源氏物語などでも、その主体の偉さによって言葉遣いが変わるため、主語をあまり書かない文体をしています。主語がないと読者が混乱する可能性がありますが、その代わり文章がより洗練され、和の雰囲気を醸し出しやすくなることでしょう。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る