凡例

一、旧南部藩領内における文献を編纂して刊行することは、まことに数年以前からの絶えざる思念の一つであった。過去に出版された書物としては、わずかに詩集の一部分に限られ、史料としては「旧蹟遺聞きゅうせきいぶん」のみにすぎず、したがって旧藩時代から現在に至るまで、世間に埋もれ、過去から伝承したまま、数百年の長い期間を、秘蔵された旧書・古文書などが少なくない。この人目に触れない、あるいは流通することの少ない文書を集め、長く後の人々に贈りたいと考えこの南部叢書を出版する。


一、叢書の為に集めた材料の選択については、岩手県の山間僻地は言うまでも無く、旧藩時からの関係のある青森県及び秋田県の一部も加え、各県の愛蔵家はもちろん、宮内省図書寮ずしょりょう(国立図書館に相当・皇室関連の書籍管理を管理していた。)・内閣文書(現代の公文書)・帝国図書館(現代の国立国会図書館の前身。)・各帝国大学図書館を初め、各地の公私図書館の所蔵本を読みふけった資料の総数四千余りの中から厳選した一点としても、本叢書の正確さと価値の価値を理解してもらえると思う。史料として既刊本を収録したのは「旧蹟異聞」のみである。


一、本書を刊行するに当たり、便宜上風土記類・史料・伝記類・地理紀行・詩文・学事・漂流記など、十冊に収めることにしている。集めたすべてを数えた際には、実に百冊余りのおびただしい数に及び、収録の範囲は郷土代表史料の他、文学・本草・天文伝説方言・漂流記・奥浄瑠璃(奥州仙台を中心に定着した浄瑠璃。古浄瑠璃の流れをくむ。)・駅程図(街道の宿場を記した図)などあらゆる方面を網羅し、めったに無いような史料として、大いに誇ることが出来ると自負する。


一、本書の校訂においては、あくまで厳正を期して、極力異本を集め「南部根元記」であれば十数種類を「志和軍記」「九戸軍談記」については89種を集め、まず善本ぜんぽん(保存状態の良い本)を参考に著者の意図を尊重しつつ校訂を施したもので、従って文章の配置、文字の用法などもすべて原本に則り、できるだけ原本の体を彷彿させるように努めた。


一、書中の作字・当て字・欠字・虫食い・脚注などは、すべて原本に倣って配置し、注釈は肯定者がした物に限り○を付け、もし原本不明で意味が取れない箇所については(ママ)と記しておいた。また原作以外に句読点をもうけたのは読みやすくするためである。


一、本書は昭和二年五月をもって第一冊を配本し、昭和四年十二月、全十冊の刊行を終了する予定である。巻ごとの数量は採録書物の多寡によって、多少の変更は免れぬだろう。


昭和二年五月


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なかなか骨が折れますね。既に心が折れかけです。旧字体に今では使わない言い回しなど・・・。ぼちぼちやっていく所存です。

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