第17話隣国の旅人。

ある日、我が家に旅人が立ち寄った。

「申し訳御座いませんが、一晩軒を貸して頂けませんか、下の馬小屋でも良いので」

「ああ馬は下の小屋に繋いでおいて下さい。旅の方は納屋の方にどうぞ」

ここは高台に有るので、馬小屋は低い街道を少し登った所に有る。

割りと身なりのきちんとした人だったし、従者も五人ばかりいた。

商人かな?。

ちょっと雲行きも怪しく、ポツポツと降り始めた。

通常通り納屋の方に案内をした。

どこの国であれ、知らぬ人を六人も母屋に入れる事は無いのだ。

盗賊の可能性も有るから、普通は馬小屋が良い処だろう。

その為我が家にも旅人様に小綺麗な納屋が有る。

ただ素通りの旅人の休憩様に、馬小屋でも泊まれる場所は有る。

街道にその為看板が建てて有る。

「真ん中に囲炉裏が有るので、そこで煮炊きして下さい」

そうして水場に有る水瓶を教え、炭を入れて囲炉裏に火をおこして母屋に帰った。

この雨なら明日も逗留して貰うか。

結構な降りに成って来たのだ。

「母さん(コンキュストさん)鰻丼でも出してあげようか」

「そうね、まだ桶の中に3匹いるから、チャチャとしごいときましょう」

「私も食べる」

お前は昼に食ったろう、あれは旅の方のだ。

そう三女をたしなめる。

まあ僕と三女のいつもの事だ。

手早く作った鰻丼を(蒸しはしないやり方)三女に持って行ってもらう。

「食うなよ」

「お母さん、お父さん酷い」

「うふふ、つまんじゃ駄目よ」

「夫婦で私を何だと思ってんの!」

そう言いながら母屋へ向かう三女だが、普通の家なら娘を向かわせ無いが、うちの三女は特別だ。あれを襲おうものなら返り討ちに遭うだろう。


コンコン!、「開けて下さい」その声に戸を開けた従者の前には、器量良しの三女がいた。

少しびっくりした従者に、リラは「うちの母の鰻丼ですがお召し上がり下さい」そう手渡した。

あっ有り難う御座います。

カクフ様大変美味しそうなものを頂きました。

それに合わせ従者の主人は、「これはこれは、泊まらせて頂いた上に食べ物まで、大変申し訳ありません」その言葉の後に従者は丁寧に受け取った。


リラが母屋に戻った納屋の中では驚嘆の声が上がっていた。

うまっ!。

何ですかこれは。

魚ですね・・・うなぎ?。

これは美味しい。

綺麗な娘さん。

この甘く少ししょっぱいタレが。

違う感想が一つ有るのは無視して、その美味しさに話が弾んでいた。


簑を着た従者にリラは傘を差し出す。

パンって音に驚く従者の手には六人分の丼とさじが有った。

日本製のポチッと開く傘だ。

まあまあこの雨の中を、置いといて下されば朝に片付けましたのに。

いえいえめっそうも御座いません。

そんなやり取りの中、傘を見つめる従者に、ポチッと押して開いたり閉じたりするリラ。

フフフ。

ハハハ。

食器を水場に置いて、従者に傘を差し納屋に送るリラ。

なぜか雨の中をゆっくり納屋に向かう二人に、淡く秋茜色の光がオーラの様に揺らめく。

僕はそれを窓から見ていた。

・・・覚えているよ、アルーシュさんとマッシュさんを包んでいたともしび、あれと同じ光だ。

三女は隣国へ行っちゃうのかな。

2日雨の為逗留した一行に、味噌と醤油それに甜菜の苗をあげた。

作り方も一緒にね。

娘にコンキュストさんの鰻丼継承して欲しいからね。

コンキュストさんにはいずれリラが隣国へ渡る事を教えた。

そして旦那が亡くなるまで添い遂げるだろう事も。

従者の方に惚れるのはリラらしいわね。

そうだな、素朴な人が割りと好きだからなあ。


後で聞いたけど、味噌と醤油と甜菜からの砂糖作りを、国王自ら推奨したりと、なかなかの手腕をみせたらしい。

おまけに後にリラが農業・工業部門を改革して、隣国は大きく発展した。

軍事国家から主権を民衆の議会へと自ら移した国王は、後に中興の祖として崇められた。

ただ貴族達を納得させるのには相当時間を要したし、暗殺未遂とかも有ったとか。


優しい旦那との間に5人の子をもうけたリラは、山の中で隠居生活を送るが、時々あちこちで悪徳商人や悪い権力者に、神のイカヅチが落としたとか聞いたなあ。

隣国の伝説に黄金の鳳凰に乗った女神が、悪者を懲らしめる話が多く残るのは先の話。

出来るだけ僕らは王族や貴族とは関わらないけど、リラの旦那は隣国の王様の従者だったね。

しかし気さくな王様だったよ。

数年に一度うちに泊まりに来てくれたり、まあリラの里帰りを兼ねてだけど。

私達一族は長生き過ぎて、人目を避ける為にどうしても山奥に隠居する。リラもそうだけど、あいつは大好きな旦那のゴーレム造ってたっけ。それで夫婦の様な生活してたな。寂しがり屋さんだから。


僕も神様にコンキュストさんを救って貰って無かったら、どう成ってたのかな?。あの時普通の体では無くなったから、今も一緒にいられる。リラやアルーシュさんより僕はその分幸せだ。

神殿跡の回りも人が多く成って町や村が増えて、仕方ないので僕達夫婦は今隣国の山奥にいる。

だって二百年は経ってるから、不審がられるんだよね。歳取らないからさ。んっ、偽造したよ国籍も身分証も、仕方無いだろ。

・・・国王には内緒だよ。





  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る