【完結済】⭐︎改稿版⭐︎ メアリー探険記 〜雪の中に残された屋敷の秘密〜
彩霞
第1話 灰色の空
フロントガラス越しに空を見上げると、遠くまで灰色の雲が広がっている。ただの曇りならば良かったのだが、そこから次から次へと雪が吐き出されるので、お陰で視界不良だ。
おまけにこの山奥に続く道は、周囲の木の枝が雪の重みでお辞儀をしているせいで、普段でも狭い道がますます狭くなっている。その上、冬場は伐採業者も立ち入らないため、道に積もった雪はそのままだ。よって前に進むには、
「いって! あたたたた……」
助手席に座っている
「大丈夫?」
運転席から私が義務的に声をかける。道が悪すぎて彼のことをきちんと見ることはできなかったが、心配するほどではないことは声の調子で分かっていた。
「大丈夫じゃありません! ホント痛いんですから! ……それにしても、本当にこの道の先に目的の建物があるんでしょうか?」
「そうね」
私は答えになっていない返事をし、再び運転に集中する。
「そうねって……メアリーさん、それだけですか?」
宗平は素っ気ない私に物足りなさを感じ聞き返す。
私は仕方なく彼を横目で見ると、二言だけ言った。
「舌噛むわよ。話したかったら、後の子供たちでも起こして話したら?」
私が運転するの車には、六歳から九歳の三人の子供たちが、後ろの席で柔らかな毛布に包まれて眠っている。
彼らはこの揺れにもびくともしない。それは下に敷いてあるマットレスが車の振動などをしっかりと吸収できる素材になっている上に、彼らの体がある程度ベルトで固定されているお陰である。
しかしそれだけではこの悪路の中をぐっすりと眠ることは不可能でろう。
では何が彼らをこんな状況でも眠らせることができるのか。それは単純に「慣れ」である。子どもたちは、普段からこのような状況で生活しているため慣れてしまっているのだ。
「……」
彼は恨めしそうに子供たちを見たが、すぐに目の前の道なき道に視線を戻す。
「……ちぇ」
彼の残念そうな態度を感じると、微笑ましかった。
私と同じように、自分の父親の家業に憧れてこの世界に入ってきた青年。
沢山のことを見て聞いて、学んで、早く立派な「無使用建築物探険家」になりたいと思っているのだろう。そのため何かきっかけを作って私と話そうとしているのだが、私は元々口数が少なく、作業に集中する方が好きという性格だ。そのため残念ながら宗平が求めているような会話はできない。
早く一人前になりたい。
早く頼ってもらえるようになりたい。
その気持ちは充分わかる。
だが、宗平はこの世界に入ってきてまだ三か月。
焦る必要はない。それにあと少ししたら、ローテーションをして私の隣ではなく、他のベテランの探険家の助手席に乗るだろう。そうすれば、この仕事について色々なことを話せるはずだ。
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