すれちがい

三浦航

すれちがい

『遅くなってごめん! 待ったよね?』

隼人は謝罪のことばを述べながら近づいてくる。

「全然! 今来たところだから!」

私は気を遣いながら答える。大方講義が長引いたのだろうが、言い訳をしないところが彼のいいところの一つである。

 隼人とこうして大学の正門で会って、そのままデートするのが自然になってきた夏のこと。今日は講義終わりに大学の近くのファミレスでお昼ご飯の予定らしい。私たちはお互いが一人暮らしということもあり、デートはご飯を伴うことが多い。

 通りを歩く女性たちの目が隼人に向けられるのがわかる。隼人は大学の同学年の男の子で、私が言うのもなんだが美形である。正面の顔はもちろん、今歩いている後ろ姿だって芸能人の誰かと間違われそうなほどである。それに比べて私なんて…。顔は中の下と自己評価しているのでせめてファッションぐらいはと思う。だが隼人は歩くのが速く、そんな彼に合わせて私はスニーカーにパンツスタイルのコーデである。そりゃあ本音を言うと、言うまでもないが、かわいいスカートとかかっこいいヒールを履いて隼人の横を歩きたい気持ちはある。

「私もおしゃれしたいんだけどな…。」

『ん? なんか言った?』

 こんな感じで隼人には気持ちは通じないようだ。


 目的のファミレスに着いた。お昼時ということもあり店内は混雑しているが、運よくテーブル席がいくつか空いているのが見え、私たちはそこに陣取った。

『俺は唐揚げ定食にしようかな。彩佳は何にする?』

「私も同じのにしようかな。唐揚げの気分。」

 私たちの目の前に注文した料理が届けられる。これで一人あたりワンコイン程度なのだから大学生にとって、もちろん高校生や社会人にとってもだろうが、良心的な価格のお店だ。

 節約のためにジュースは頼まず水を飲む私たち。傍から見ればどこにでもいる大学生なんだろう。

『いい食べっぷりだなぁ。そんなに食べると太っちゃうぞ。』

「たまにはいいじゃん。いいよね隼人は。食べても食べても太らないもん。」

『はい、ブロッコリー。』

「もう。こどもじゃないんだから。」

『それ好きなのもわかるけど、野菜も摂っておかないと健康に悪いだろ。』

「言い訳ばっかりなんだから。」


『口元、クリーム付いてるぞ。』

優しく拭き取る隼人。

「恥ずかしい。」

拭いたあと、手鏡で口元をチェックしてみる。よし、これで大丈夫。

 私が確認し終えると同時に隼人は会計の準備をした。普通の男女であれば男性が多めに、もしかしたら奢るのが一般的かもしれないが、私たちは自分の分は自分で払う。私も急いで財布を出す。そして会計を終えた隼人を追うように店を出た。


『しょうがないよ。俺も一緒にいたいけどシフト入っているんだろ。夜は彩佳の大好きなブロッコリーのサラダ作って待ってるから。』

「私も一緒にいたい。」

 今夜は過ごしやすい気温らしいし、それまで部屋の外にいても平気だろう。彩佳が来る時間まで。

『じゃあまたあとでな、彩佳。』

 そう、彩佳はまたあとで。このあとは私が隼人を独り占めするの。

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すれちがい 三浦航 @loy267

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