第14話 橘蓮⑭

 事件解決三日後昼間。事務所内。

「ちょっと、どうして依頼料半分返しちゃうのよ!」

「不満?」

 蓮は推理小説を読みながら、蘭のヒステリーを聞いていた。

「当たり前でしょう! ピンチなの自覚無いの!」

 三日前にも同じ言葉を聞いた気がするが、蓮は特に反省していない。

「あっそう」

 蓮は本のページを捲る。

「なんで返したのよ?」

 ヒステリーの原因はせっかく入った依頼料を返してしまった事にあるようだ。

「彼女の意思さえはっきりしてたら、返すつもりだったから、君の時だって依頼料をそこまで要求していないはずだろう。僕は闇金でも悪徳商法の勧誘員でも無いんだ。五十万なんて大金貰える訳無い」

「それは、内訳をはっきり言ってから言いなさい。瑠衣の為のお金が多いのは可笑しいでしょう」

「あっそう。で? それをどうにかするのが、君の役目じゃないの?」

「他人事だと思って」

「他人事だし」

「ただ今、蓮。バッチリ届けたぜ」

 瑠衣は蓮のお遣いに行っていた。

「ありがとう」

「ああ、腹減った~蘭ちゃん。今日の昼飯なに?」

 脳天気に聞いてくる。

「あんたのそれが一番腹立つのよ!」

 ドサッ!

 蘭はテーブルの上に大量のパンの耳を置いた。

「これは?」

 瑠衣が聞く。

「今日のお昼よ。私はあなたの飯炊き侍女じゃないの」

 丁度買い貯めていたのだ。

 いつか、別の料理にして出そうとした物である。

 いわゆる節約料理の材料である。

「うん。パン屋の耳だから美味いな。バターとかチーズ欲しく無い?」

 瑠衣は蘭の話も半分に、食べ出していた。

「うん」

 蓮もちゃっかり食べていた。

「持って来るよ」

 瑠衣がキッチンへ向かう。

「ちょっと、蓮君まで」

「だって食べなきゃ五月蝿いじゃん。パンは嫌いじゃない」

「そう言う問題じゃなくって、蓮君は別に作るから」

「節約は?」

「それは、そうだけど」

 蘭は困っている。

「お待たせ。ジャムもあったぜ」

「うん」

 瑠衣と蓮はムシャムシャとパンの耳を平らげる。

「もう」

 蘭は男達の自分勝手に困り果てた。



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