第36話 <森に出発!>

 森にやって来た私たちは、早速ビルジャイアントの目撃情報があった場所まで移動することにした。

 森の中を流れる川に近い洞窟。そこを日除けにして昼寝している姿が目撃されたんだって。

 サクッと向かってサクッと片付けちゃおうか。ここら辺でアレ、使っておこう。


「魔力解放」

「あ、もう使うんですね。魔力解放」


 私に続いてイリヤも同じ行動を取る。

 当然、使うのは私たちオリジナルの武器。マジックウェポン――私の武器の名前はマジックソードって名前にしてみることにしたよ。

 赤い魔力の刃が伸びる。イリヤの槍からは澄んだ青色の刃が伸びる。


「わっ! なんですかそれ!」

「リリが作った武器よ。私も一つ欲しいって思ってるのよね」

「お姉様のためならいつでも作りますって!」

「でも、リリさんの刃の色……綺麗だけどどこか禍々しくありません?」


 エルサが酷いことを言ってくるんですけど!

 そりゃまぁ、見た目はどこぞの暗黒面のなんとか卿が使ってたあの武器とそっくりだから何も言えないけど、私だって望んでこんな色にしたんじゃないもん!

 持ち主によって勝手に色が変わるんだけど、どうしてこんなことになってるのかはいまだに分からない。私、女神様に選ばれたのよね? あの方、女神様を騙る邪神とかじゃないわよね?

 ふわふわと飛んだリリスが慰めるように私の頭を撫でてくれる。ああもう……リリスだけが私の癒やしだよ~。

 リリスを捕まえて頬ずりをする。ふさふさの毛とわずかに感じるぷにぷにの感触に虜になりそう~。


「……っ! リリ……」

「うん。分かってるよイリヤ」


 名残惜しいけど、リリスを解放してマジックソードを正面に構える。

 お姉様やエルサも気付いているわよね当然。キルアちゃんだけが慌てたようにあたふたしている。


「えっ? えっ!?」

「私の側を離れないでねキルア」

「魔物だよ。囲まれてる」


 私たちの様子を窺う無数の赤い目。

 一匹が草むらから飛び出してきた。牙を打ち鳴らす独特の威嚇を仕掛けてくる。

 現れたのは、ペルスティアでも何度も戦ったシャドーウルフ。本当にどこにでもいるのねこいつら。

 実戦慣れしていないキルアちゃんが一歩後ずさる。でも、エルサが優しく肩に手を置いて不安を和らげようとしているから問題はないね。

 こいつらは、逃げようとする者から優先的に狙う習性がある。キルアちゃんが逃げ出せば状況は少し面倒な事になっていたけど、今ならいける。

 単体の強さはそれほどでもないし、さっさと終わらせて本命の獲物を仕留めちゃいますか!

 って、思ったけど私の前にお姉様とリリスが歩み出る。


「リリは下がってて。お姉ちゃんの格好いい所を見せてあげるっ」

「みゃあ!」


 なんか、二人ともすっごくやる気みたい。なら、お願いしようかな。

 シャドーウルフが飛び出した瞬間、お姉様が剣を一閃した。

 飛び込んできた一匹を難なく撃破。すっごい綺麗な太刀筋!

 リリスが爪を光らせている。魔力を刃のように変質させているっぽいね。

 回り込もうとしていた二匹のシャドーウルフめがけて刃を発射。足と首を切断している。


「つ、強い……!」

「さすがはエスナ様。あの猫ちゃんも中々やりますわね」


 後ろからキルアちゃんとエルサが感心したように漏らした声が聞こえたから、ちょっと自慢げに振り返る。

 ……なんか、すごいことになってた。


「エルサ? それは?」

「後ろから襲ってきたので、軽く仕留めただけですよ」


 地面から飛び出した岩の柱に頭を砕かれたシャドーウルフの死体が散乱している。

 あれは、ストーンバスターを使ったのね。エルサがあれを使うと殺傷能力が比じゃないのに……可哀想。

 というか、このままだと私だけ何もしていないことになっちゃう! お姉様は下がっててと言っていたけど、私だって何かしたい!


「じゃあ、適当に魔法でも飛ばしときますか」

「火炎魔法だけはやめてくださいね」

「イリヤは私のことをなんだと思ってるの!? 放火魔じゃないんだよ!?」


 すっごく失礼なことを言ってきたイリヤにジト目を向け、術式を組んで一気に展開する。

 大方の位置は把握してるから、ピンポイントで狙撃するよ!


「これでもくらえ! “ギガ・バリスタ”!」


 極大の風の矢を生成し、打ち出す魔法。

 風の破壊力を馬鹿にしたらいけないよ。大岩程度なら木っ端微塵だもの。

 それを連続して放ち、私たちを包囲していたシャドーウルフを全滅させる。はい、戦闘終了。


「ふぅ、お疲れ様~」

「リリさんもでたらめですね。あの威力で連続発動を無詠唱で……」

「エルサだって同じようなことできるんじゃないの?」

「私の場合は詠唱が必要になりますからね」

「詠唱ありならできるんだ……」


 お姉様が困ったように頬を掻いている。

 さて、邪魔者を排除したし、先に進み……


「……地鳴り?」

「あれだけ暴れたら相手も気付くよね」

「みゃあみゃあ」


 どうやら、お目当ての大物を意図せずおびき出してしまったらしい。

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