第27話 <実技試験!>
空気が最悪の中、入学試験は始まった。
実技試験で見られるのは、魔法・武術・体術の三つだとか。魔法は問題ないと思うけど……体術は不安なのよねぇ……。
試験官の先生の指示に従い、最初は体術の試験から。最初に挑むのはユウゴだ。
先生が手を突き出して呪文を唱える。出現したのは、複数の人間より少し大きいゴーレム。
「第一の試験として、このゴーレムと三分間組み合ってください。その結果を見て点数をつけます」
「っしゃ! 俺から!」
先生が開始の合図を出すよりも先にユウゴがゴーレムに走る。
作られるときに与えられた命令に従ったゴーレムが思い一撃を前方に打ちだした。
ユウゴは放たれたパンチを身を捻ることで回避し、腕の中央辺りを掴んだ。素早く体勢を変えるとゴーレムの勢いも利用して思いっきり投げ飛ばしてしまう。
重いゴーレムがぶっ飛んじゃった。地面に落ちた衝撃でかなりの衝撃波が走って私たちの体が一瞬浮かび上がる。
「はっ! 見たか! これが勇者の力だ!」
すっごいどや顔で胸を張っている。でも、直後におかしな音が聞こえた。
全員が音のした方を確認する。で、あり得ないものを見た。どうしようもないものを見たときは思わず笑ってしまうんだってよく分かったよ。
エルサの相手をしていたゴーレムが粉砕されている。胴体部分が抉れて細かくヒビが入っているから多分パンチしたんだと思うけど……人ができるレベルじゃないよね……この試験では強化魔法禁止だし。
それは先生も思ったみたい。冷や汗を流しながらエルサの身体チェックをしている。
「ずりぃぞてめぇ! 強化魔法は禁止だ! 貴族だからって何でもしていいことはないぞ!」
「……エルサさんに魔法を使用した形跡はありません。よって、問題ありません……」
騒ぐユウゴとすまし顔のエルサ。いや、どう考えても無理があると思うんだ。どうなってるんだろう……?
「ふふっ、リリさんには後で秘密を教えて差し上げますわ」
「あ、ありがとう……」
知りたいような、知りたくないような……。
あ、ちなみにの話をすると、私もセレイナもそんなに格闘術は得意じゃないからそこそこの点数だと思う。イリヤはユウゴほどではないけどゴーレムを投げそうになっていたからどうだろうか……。
◆◆◆◆◆
次の試験は武術を見るもの。まぁ、これは正直予想通りというかなんというか……。
「すごい……! 魔法だけでなく剣の腕も一流とは!」
「褒めても何も出ませんよ」
私とケインで打ち合っている。
得意な武器を一つ選び、二人組を組んで試合する。その内容で先生が得点を付けるのがこの試験。
私は冒険者として剣を振り回しているから、慣れてると言えば慣れているのよね。でも、イリヤほどではないけど。
ケインの踏み込みに合わせて私もつばぜり合いで応じる。刀身が擦れて妙な音が鳴る中、チラリと横目でイリヤの様子を確認する。
イリヤは、ケインが連れていた執事っぽい少年と戦っている。でも、イリヤの槍捌きは一流を越えたレベルにあるから、可哀想なほどにあの子が地面を転がされている。
イリヤが最高得点なのは多分間違いないよね。さて、残りの組はどんな……。
「あら、ごめんあそばせ。楽しくて少々強めに打ち込んでしまいました」
「いったた……。さすがに勝てないなぁ……」
「あはは……。私はさっきからいいところがありませんね……」
豪快で、それでいて美しく洗練された動きで斧を操るエルサ。打ち合う相手はセレイナと、ケインに仕えるメイドの女の子。
試合はエルサの独壇場で、セレイナが少し食い下がれたくらい? エルサって相当強いからねぇ。今は遊んでるっぽいけど、本気を出せば多分イリヤよりも。ギャスティック大公家が持つ騎士団に属するどの騎士よりも強いとか噂されているし。
つばぜり合いを解除してケインと私が一歩下がる。わずかな隙にケインの木剣を弾き、喉元に先端を突きつけて試合終了っと。
降参のポーズを見せるケインに手を貸して立たせる。と、その時、木剣が飛んできたから身をかがめて躱した。
やっぱりユウゴだ。ケインが連れてきたもう一人の女の子のことを滅多打ちにしている。
さすがに見かねた先生が止めに入っていた。あれ、本当に胸糞悪いな……。
◆◆◆◆◆
最後、魔法の試験! これは私の領域よ!
イリヤとケインの連れてきた三人が伸び悩み、セレイナが皇族のみに継承されてきたとされる秘術を使って先生に怒られ、ケインが安定の好成績をたたき出す。残るは私とエルサとユウゴ。
この三人で最初にいったのはユウゴだ。手を突き出して集中しながら呪文の詠唱を行う。
この試験は、何でもいいから魔法を見せること。術式の丁寧さや詠唱から発動までの時間、それに威力や魔法発動の難易度を総合的に採点するって。
「我が求めしは障害を焼き払う裁きの猛火。眼前に広がる神敵を滅せよ! これでもくらいやがれ! “ギガ・ブレイズ”!」
ユウゴが使ったのは、炎熱系の中でも上位に位置する攻撃魔法。
荒れ狂う炎の波は試験場の床にあった可燃物をを燃え上がらせ、的である丸太を一瞬で焼き尽くした。
「見たか! これが格の違いだ!!」
すっごい楽しそうだなぁ……。でも、その程度か。
あれなら私もエルサももっと強い魔法を使うことができそうだ。
次にエルサが前に出る。指を二本、丸太に向けてボソッと詠唱を行う。
「貫け紅蓮。“ファイアアロー”」
炎熱系の中でも比較的低位の攻撃魔法。ユウゴが鼻で笑うが、術式に込められた魔力も見抜けない時点で三流ね。
でたらめに魔力を込めて放たれたエルサの炎の矢は、通過した直下の地面を融解させ、丸太に当たる前に蒸発させた。
誰もが呆然とする中、エルサは肩を震わせて笑っている。本当に意地が悪いんだから。
さて、次は私。ここはアレをやりましょうか! 一度やってみたかったの!
「燃えろ」
詠唱も、魔法名もカットした完全無詠唱発動。厳密には、無詠唱とは違うんだけどね。これが女神様からもらった加護の最大の能力。
エルサの矢の数倍の火力が込められた火の玉が浮かび上がる。
「ちょ!? 魔法を消しなさい!!」
その圧倒的火力を恐れたのか、発動と同時に先生から止められちゃった。
言われたとおりに中断する。すると、ケインが震える声で何かを言っていた。
「今の……まさか最上位魔法のバーストフォルブレイズ……!?」
「今のはバーストフォルブレイズではない……ファイアボールだ……」
決まったぁぁぁ!! これ、やりたかったの!!
某魔王様の台詞がかっこよくていつかいつかと思っていたの。まさか本当に使えるなんてね!
「嘘だ!! そんなわけないだろ! ファイアボールなんてカス魔法でどうして勇者の俺より強いんだよ!!」
あー、うるさいうるさい。というか、それは私だけでなくてエルサもそうでしょうに。
ユウゴは先生に詰め寄るけど、先生も首を傾げながら応対していた。
「確かに今の魔力波長はファイアボールだが……そんな力が……?」
見たか! これが私の力!!
ご機嫌になったことだし、イリヤを連れてお昼でも食べに行こっと。昼からの試験対策もしないといけないしね。
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