第19話 <私も誕生日!>

 イリヤへのプレゼントを買ってから二日後。今日はいよいよイリヤの誕生日!

 ……なんだけど、はい。とても大事なことを忘れていました……。


「リリ様。お誕生日おめでとうございます」


 にこやかに祝福してくれるメイド長のルフレンさんに、私は苦笑いで返しちゃう。

 うん、そう。ここまでの流れで分かるかと思うけど、イリヤの誕生日と私の誕生日は同じ日で……つまり私はそのことを忘れてて……。

 別に、忘れてたからどうこうってことはないんだけどね。ただ、お父さんに冗談一切抜きで老化を心配されちゃったよ。

 そして今、私はイリヤを連れて庭に出ている。プレゼントは今晩、食事の後にでも渡そうかな。

 お父さんが時間を見つけてお世話してる花が植えられた花畑の近くで座り込んで手紙を読む。誕生日ということで、いろんな貴族からお祝いの手紙が送られてくるのよね。

 イリヤが庭用の机を運んできてくれて、紅茶を淹れてくれている。私の足元でリリスが大あくびを漏らした。


「ごめんねイリヤ。貴女も誕生日なのにいろいろしてもらっちゃって」

「いえ。リリのお世話は楽しいことですから」

「ありがと。リリスも、日頃ありがとうね」

「みゃあ?」


 首を傾げ、膝の上に飛び乗ってくる。そこからまたあくびを漏らすと、丸くなって寝てしまった。

 可愛いリリスの頭を撫でると、また一台馬車が入ってくる。さて、今度はどこの貴族かなぁ……って、あれ?

 あの馬車、ペルスティアの家紋が入ってる。なーんて考えていたら、馬車の扉が少し開いて魔法が飛んできた。


「ッ!? 雷撃の魔法!?」

「リリ!!」


 慌ててイリヤが私の前に割り込んでくる。咄嗟に防御しようとしたみたいだけど、間に合わなかった。

 雷撃はイリヤの体を直撃し、小さく爆ぜて霧散する。思ったほど威力はない……?

 と、馬車から少女が降りてくる。もちろん、その人に見覚えはあるよ。というか、覚えていなかったら本当にお婆さんだよ。


「お姉様!?」

「久しぶりねリリ! 元気にしてた? イリヤも元気にしてる?」

「はい……おかげさま、で……」

「ありゃりゃ、痺れちゃってる。ショックボルト……そこまで強かった?」

「はらだが……しぎれてましゅ……」

「あはは。リリを守ろうとしたのは頼もしいけど、まだまだ想像力が足りないよ! 何が起こるか警戒しないと!」


 なぜか胸を張るお姉様。すると、馬車からにゅっと腕が伸びてその指先がお姉様の頭に触れる。


「我が身を守る雷の精よ。“ショックボルト”」

「あびゃびゃびゃ!」


 お姉様の魔法よりも強い電流を受けて、お姉様が倒れちゃった。魔法を放った人物が黒い笑顔で馬車から降りてくる。


「エスナも想像力が足りませんね。リリでもイリヤちゃんでも攻撃するとどうなるか分からなかったのですか?」


 す、すごい……! どす黒いオーラが見える気がする。

 馬車から降りてきたのはお母さん。でも、気配だけなら魔王と言われても私は信じるよ……。

 しびれが取れ、復活したお姉様。お母さんはお姉様を正座させてお説教を始めたよ。

 庭での騒ぎを聞きつけたのか、お父さんが出てくる。


「おお! エスナとティナ! 今帰って……何事だ?」

「ちょっとお説教を」

「お、おぉ……。そうか」


 お父さんが戸惑ってる!

 なんか、ちょっとお姉様が気の毒に思えちゃった。少し話題を逸らそう。


「そういえば、二人はどうしてここに? 学校が忙しいんじゃ……」

「もちろんリリとイリヤちゃんの誕生日だからに決まっているでしょう?」

「大丈夫! 今は後期休みだから! 可愛い妹のためなら授業があってもサボるけど!!」


 どや顔のお姉様をお母さんが拳骨する。お父さんが怖いと思ったけど、お母さんも中々だな……。

 お父さんが頭を抱えていた。グラハムさんも出てきて苦笑いで傍らに控えている。


「本当にうちの娘たちは……!」

「元気な証拠だと思おうか……」

「はぁ……イリヤちゃんみたいな大人しい子だったらな……」

「イリヤも最近は……」

「それはリリが連れ出して振り回しているだけだろう? 本当にすまない」


 おっとその話はマズい。お母さんが笑顔で私を見てくる。


「リリ? 今晩大事な話があったのだけど……もう一つ追加ね」

「ひぇっ!」

「あ、イリヤちゃんにも大事な話があるからね。リリと違って、ちゃんと平和的な」

「私には平和的な話じゃないと!?」


 不気味な笑い声を残してお母さんたちが屋敷に入っていく。

 でも、うわぁ……。お母さんのお説教だよね。本当に怖いから嫌なんだよ。

 あぁ、せっかくのお誕生日なのに気分がぁ……。


「身から出た錆ってやつだね」

「お姉様。正論が一番人を傷つけるって知ってます?」

「知ってるよ。私はリリのお姉ちゃんだもん。いっつも同じようなことで怒られてるから!」


 ええ、うん。やっぱりお姉様は私のお姉様でした。

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