今は



 真夜中なのでしょうか。それとも昼間。



 私は窓の外を見やる。耳に響くのは、私の乗るこの列車が、線路の上を走るごとごとという音だけです。線路など、本当はどこにもない、星の中をひた走る、この列車に。



 私は再びこの列車に乗ることをなぜ望んだのでしょう。



 しかも彼がここにいないことはよくわかっていたのに。



 なぜなら彼はもうずっと昔にこの列車を降りて天上へと昇ってしまった。僕たち、いっしょに行こうねえ、という私の言葉を聞くこともなく。



 窓の外にはなにもない。



 否、そうではない。窓の外はある。確かに。けれどここから今、そこを見ることはできない。外の景色を見ることをこの窓は私に許してくれない。おまえにはほかに、先に見なければならないなにかがあるだろう、と。



 かつて私は、この列車に友人とふたりで乗り込みました。それは勿論、私と彼だけしかしらないことです。そしておそらく彼は、私とともにあったことを、他人に知られたくはなかったと思います。あの後、私と彼の進む道は決別したのですから、それは当然のことです。



 けれど、私はあのことを、ふたりの間でしかわからなかったあのことを、作品として世に出しました。美しい友情と別離の物語に仕立て上げて。



 そのことを許してほしかったわけではありません。けれどもう一度、確かめたかった。自分の中のなによりも大きな気持ちを確認し抱きしめて、次の世へと行きたかった。そうしないと、不安だったのです。もしかしたら自分は、もはや忘れ果てているのではないかと。あれだけ切実に抱いていた、望みを。

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