第二棒
ご都合主義のこのゲームの中で、コヨリダ魔術学園に途中編入のリアシャさんは、私…シャリアンデ=マカロウサ公爵令嬢と設定上の婚約者の王太子殿下、ディリエイト殿下と同じA組になったはず、これもシナリオ通りだとそうなるはずだ。
という訳で、リアシャさんと話し合いの末、色々と決まり事を決めた。
その①シナリオの進行上、棒読みになりつつ話している言葉は『愛☆フリシェリアーナ~学園編~』内の台詞なので、本心ではないので気にしないように
その②体が勝手に動き、シナリオに沿うような意地悪をしでかしていても、本心ではないので気にしないように
その③シナリオの都合で急にイベントが進み、体の自由と言葉の自由が奪われる状態になっている時に、挙動不審になっているが本心ではないので気にしないように
…要は、お互いの棒読み棒演技を気にすんな!ということだ。
昨日、泣きながらではあるがリアシャさん…(本名は身バレの恐れありなのでゲーム内の名前をお互いにハンドルネーム感覚で呼ぶことにした)とも確認したのだが、シナリオに自分の出番が無い場合、比較的自由に行動出来て、言葉にも制限がかからないということが分かったのだ。そして私的にどうしても確かめたいことがあり、今朝は早起きして登校の準備をしているという訳なのだ。
「よし、バッチリ」
何故か貴族の…しかも公爵令嬢なのに学園の女子寮から通学していて、公爵家から連れて来ているメイドが世話をしてくれて、身支度には困らないという…親切何だか不親切なのか分からない寮生活をしている。
メイド達も一週間交代で公爵家からこちらに来ていて、日中は私が学園に行っていないので休憩時間という扱いになっている。実質のお世話は朝と夜のみで、土日が一番忙しいという訳だ。
私は自分で記憶している限り、前世の記憶を思い出す前から比較的おとなしくて扱いやすい令嬢だったと思う。
ただ……服装のセンスがダメダメだ!
という訳で…本日からは攻撃的な縦巻きの髪型は止めて、特殊メイクばりの厚化粧も止めて、魔改造した制服も止めた。
元々16才なんだもの、すっぴんよコンニチハ!くらいの綺麗な肌をしているのに、何故ファンデーションを塗りたくらないといけないんだよ、リップグロスだけで充分だ。
「お嬢様…本当にこのお姿で通学されるのですか?」
メイドのマーサに朝からしつこいくらいに聞かれているが、心配なんだろうね~でもこの段階で私の体にゲームの強制力の圧?は感じられない。
つまり姿形は多少いじっても、ゲームの強制力は発動しないという証明になったわけだ。
つまり、強制力がかかるのは、おもに台詞、態度等にシナリオが開始されると同時に強制力がかかってくるわけだ。
そう考えるとリアシャさんは朝から心の籠らない台詞を言わされてるんだ……考えただけでも憂鬱になる。いえ…泣きたくて疲れてしまっているのはリアシャさんの方だ。せめて私はシナリオの強制力が終わった後にリアシャさんの愚痴を聞いて、労い慰めて元気づける…これをするしかない。
確か…ゲーム開始の次の日は
その時の私…シャリアンデ=マカロウサは確か、婚約者のディリエイト殿下とご一緒していたはず…ランチを食べていた…だったかな?
頭の中で今日の強制力がかかってくるであろう場面を、復習しながら女子寮を出た。
歩いていると…思っていたより、こちらを見てくる周りの目が凄いや。私を見てヒソヒソ話をして、悪口かな…分からないけど…
「シャリアンデ…」
名前を呼ばれたので、振り向くと…わわっ!ディリエイト殿下だ…サラサラの肩まで伸ばした銀髪に、碧眼の綺麗な瞳の王子様。ひえぇ~改めて真正面から見るとさすがメインヒーロー!滅茶苦茶美形様、王子様、お色気様じゃないか!
さすが生の破壊力は凄いわっ…スチルじゃ味わえない臨場感だね。
「おはようございます、ディリエイト殿下」
私は通学路の端に寄ると腰を落とした。私に倣って周りにいた令嬢や子息達も腰を落とした。
「本当にシャリアンデなのか…?」
何の確認だろう…と、首を捻ったけれど…ああ、そうだったわ!私すっぴんだから誰か分からないんだね?
「まあ…オホホ、シャリアンデ=マカロウサでございます。私、取り繕うことを止めることにしましたの」
そう言って微笑んで見せたら、ディリエイト殿下は目を丸くしていた。
まあ…昨日までの私は、厚化粧お化けの派手派手女のくせに性格は陰気という…どの方向に向けて突き進んでいるのか分からない、勘違い女だったものね。
今の私が目指す方向は『棒読み以外は自由に暮らす』これよ、これ!
「シャリアンデ…では…」
ディリエイト殿下が私に向けて手を差し出した。
エスコートしてくれようとしているのだね?どうかお気になさるなっ!気の無い女に気を使うなんて殿下って優しいねぇ~と思うけど、殿下が気を使うのはこれから起こる私とリアシャさんによる、棒読みの嵐の中の自身の名演技のみだからな!
「どうぞ、お先に…お気遣いなく」
ディリエイト殿下を袖にした(気分だけ)
ディリエイト殿下は伸ばしていた手を引っ込めて、怒っているみたいだった。
ゴメンなさいだけど、怒ったって別にいいよ。あなたとは婚約破棄をされる予定だし、ゲームの強制力とやらが働くとしたら、婚約破棄イベントは三年生の冬休みの前、クリスマスパーティーの場面だからね。しかもまだ二年も先だし…高校三年生まで諦めろ!
ディリエイト殿下は私を睨みつけた後、登校して行った。あら?良く見れば殿下の後ろに攻略キャラの無口イケメンのビィルブ=シューメル侯爵子息がいるじゃない!
短髪黒髪にエメラルドグリーンの瞳がカッコイイ!
きつい視線で私を見ている目もツンツン属性の彼ならではで、そんなビィー様に思わず微笑みかけてしまった。
「…!」
ものすごく驚いた顔をされてしまった……ごめんね、ビィー様。あなたがアイフリの中で私の推しメンだったのよ…
私は攻略対象キャラ二人が颯爽と歩き出したのを確認して、ゆっくりと歩き出した。
「シャリー」
後ろから声をかけられて、笑顔で振り返った。良かった…強制力はかからない。
「リアシャさん、おはよう!」
笑顔の主人公、リアシャ=メイデイ子爵令嬢が同じく笑顔で駆けて来て、私の横に並んだ。
「今日はいよいよ…だね」
おっ…リアシャさんも覚えているね。私は通学鞄の中から手帳を引っ張り出した。
「そう…今日は『出会いイベント』が朝から続くよ。このまま通学路を進めば、ミスト=アイエデーダ伯爵子息と遭遇イベントね」
「シャリー、その手帳…もしかしてイベントのこと書き出してるの?実は私も書き出してるの!寮に置いてあるよ」
「じゃあ、今度その情報の照らし合わせしない?細かなイベントを思い出してないか記憶違いがあったりするかもだし」
リアシャさんは破顔した。
「了解!そういえば、朝はミスト様のイベでしょう?教室に行く前に保健医のガント=ローマレ先生と遭遇イベ…で、お昼にディリエイト殿下と遭遇イベだよね?」
あ、そうだ!聞いておこうと思ったんだ。
「ねえ、ディリエイト殿下とはお忍び中の遭遇イベはもう終わったんだよね?」
リアシャさんは青汁をがぶ飲みしたような顔をした。
「それが……私は記憶にないんだよ、もしかしたら自覚する前に会ってるのかもだけど、まあお昼に会うディリエイト殿下の反応で分かるかな?」
「そうか…時期的には会っているはずだもんね~」
そうか…ゲームのシナリオではこの学園に入学する前にお忍び中のディリエイト殿下と街で偶然出逢っているイベが既に終わっているはずだ…
リアシャさんの前世の意識が覚醒する前に、迫真の演技で出逢いイベントをこなしちゃったのかも…
「とにかくさぁ今日は、棒読みが凄まじくなると思うから、笑わないでよ~?」
「アハハ…私も今日一言だけどディリエイト殿下との絡みがあるから、棒ってしまうわぁ」
リアシャさんとふたりで通学路で大笑いをしてしまった。もう笑ってやり過ごすしかないよね。
私とリアシャさんは頷き合うと、通学路の先を見詰めた。
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