優勝

@takkunchan

優勝

僕はやさしいことで評判だった。

両親から「やさしい人になりなさい」と育てられた。

幼い頃から、先生にも「やさしいね」と褒められていた。

大人になってからも、上司から「やさしいね」と言われていた。

僕はやさしい。間違いなく。

今日だって、おばあちゃんに席を譲ったし、部下の仕事を巻き取って、残業までした。「ありがとう」と言われるのが嬉しかった。

どんなに遅くなったって、家に帰れば皿洗いや洗濯、ちょっとした掃除だってやっている。

僕はやさしい。絶対に。


今僕にはお付き合いしている人がいる。そろそろ結婚も考えている。

彼女は、僕のやさしいところが好きだと言った。

僕も彼女のやさしいところが好きだった。

僕にとって、やさしくすることは、簡単だった。

彼女もやさしい人だから、やさしいことを当たり前にやってのけた。

やさしい2人。2人もやさしい人がいる。

僕は彼女に聞いてみた。

「僕ってさ、やさしいよね?」

彼女は答えた。

「んー、やさしいわけでは…ないかな?」

 僕は微笑んだ。

 「そっか…じゃあ、今から僕のやさしいところを見せてあげるね」

 そう言うと、彼女はすぐに、僕のことを「やさしい」と言ってくれた。

 僕はやさしい。誰よりも。

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