復讐を望むキツネ

常闇の霊夜

望むは死、願うは復讐。


昔、獣人がいた村があった。割とつつましく暮らしていたのだが、そんな彼らを悲劇が襲う。それは人間達の襲撃。そいつらは獣人達を狩りと称して襲っていった。女は捕まり売られ、男は皆殺しにされた。そんな虐殺から唯一逃げ出した二人がいた。


「母さん……結局救えたのは母さんだけだった」


「別にいいのよ……ごめんね」


「母さんが謝る必要は無い。……悪いのはあいつらだ!何が狩りだ……!人殺しの屑共め!」


二人が逃げるために兄と父が犠牲になった。ちなみに母親は妊娠しており、破水している状態になっていた。そんな時に襲ってきたので、状況は最悪。よく逃げ出せたものだと逆に感心するレベルであった。


「……!生まれる」


「本当か?!どうすればいい……!?」


「大丈夫。……大丈夫だから」


そして妹が生まれた訳である。だがここで問題が発生する。そう、彼の母は出産を終えた瞬間、死んだ。


「母さん?母さん!?」


残されたのは生まれたばかりの妹だけ。頼れる奴は一人もいない。人間は恐らく、見つけた瞬間にまた襲い掛かってくるだろう。


「……俺は……俺はどうすればいい……?」


「ウカノ様!その辺りは危険です!」


そんな時であった。彼はある人物……否、神様に出会う。それは『ウカノミタマ』と呼ばれる神様であった。


「ねぇイチ!何かいる!」


「いや何かって野生生物とかそう言うなんだぁ?!」


そして二人はとある場所に連れていかれる。それは神社であり、この世とは隔絶された場所であった。


「すげぇ……」


「この先に私のおとーさんがいるの!きっと助けになってくれるよ!」


そのウカノミタマの親父こそ、先代ウカノミタマであった。元は子狐の状況から、神様までのし上がった男である。


「……俺の種族の生き残りがまだいたのか……で、何があった」


「……俺の故郷が……人間に焼かれた」


「マジか……で?お前はどうしたい?」


「……はっきり言って、言うべきじゃぁ無いのかもしれない。……でも言わせてくれ。俺が望むのはただ一つ。奴らをぶっ殺す事。……この手でな」


「だとしたら俺はお前の行為に付き合うことは出来ねぇ。いくら祟り神でも自分の為に人は呪えねぇんだ。分かるな?」


彼の本分は一つ、祟り神である。人間に絶望を振りまき、そして崇めさせることで信仰を得るという奴らである。だが今回は完全に個人の問題。それに呪ったところでどうにかなる奴らではない。


「……だから、せめて妹を頼む。……こいつだけは俺の唯一助け出せた者なんだ。……殺させる気はない」


「分かった。復讐を終えてからまたくればいい」


「……お願いします」


そして彼は都心に向かうその理由は一つ。昔聞いたことがある、殺し屋の噂を。彼はその本拠地に向かい、そこでその場所のボスと出会う。


「で、俺らの所に来たわけか」


「あぁそうだ。……入れろ」


「獣人入れる訳ねーだろ。お前バカかよ?」


「……そう言われると思ったよ」


そう言うと彼は自分の耳を引きちぎり、そして尻尾も千切った。血がとめどなく出てくるが、それでも迷うことなく真っ直ぐとした目でその男を見る。


「これで良いか?」


「……銃をやろう」


それだけやって投げ渡されたのは拳銃。六発の弾丸があるのを確認し、静かに立ち上がる。


「じゃあ帰んな」


「……そうさせて貰う……よ!」


そう言うと即座に隣にいた奴の頭を拳銃でぶち抜き、そいつから拳銃を奪い取ると盾にしながら二人目の眼球を貫き脳天をぶち抜く。両手に持った拳銃、後ろにいた奴を振り向くことなく撃ち抜き、盾にした奴を蹴り飛ばして体ごと貫いて四人目を殺害、残った拳銃で五、六人目を殺害すると、ボスの前に立つ。


「……で?」


「……分かった……お前を……」


しかしそれでも暗殺者であるのか、椅子に取り付けておいた拳銃を取り出そうとした。だが当然行動が読まれていたのか、そのまま手を撃ちぬかれる。


「……もう一度だけ聞くぞ。……で?」


「無駄だ……!お前もどうせぶっ殺され」


言おうとした最後の言葉を言い終わる前に撃ち殺される。そして血が少なくなってきたせいでフラフラしながらも、何とか出口にたどり着く。だがその後はもう動けなくなってしまった。


「……ここまでか」


「いや?そんなことはねーようだぜ?」


「何か見つけたのか十八」


「そーだよ。こいつ、俺らで育てね?……きっといい暗殺者になるぜ」


これは彼、『イナリ』と呼ばれる少年の復讐の物語。あの場所で理不尽に殺された皆の為、一切止まることを知らない男の話。これはその前日譚である。


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復讐を望むキツネ 常闇の霊夜 @kakinatireiya

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