4節

【1年C組の仁科 歩さん、至急生徒会室までお越し下さい】


翌日、昼休みに入った瞬間に校内放送で呼び出された。

職員室では無く生徒会室……。

あの校内新聞の事だろうな。

流石に風紀的に不味かったのだろう。

吾妻先輩は対応済みとか言ってたが、事が大きくなれば生徒会だって対応するしかないだろうな。

――つまり、今回私は巻き添えを食らったと言う事なのだろう。

しかし……どうした物か。

生徒会室へ来いと言っても入学したてな私はその場所が分からない。


「生徒会室? イイよ、案内してあげるよん♪」


購買のパンを頬張る(いつ買いに行ったのだろう)朝子殿に相談するとあっさり案内してくれる事になった。


「うんうん、やり手の生徒会長にお近付きになる絶好のチャンスだし。あわよくば弱みの1つや2つ握れるかも知れないからね〜クックックッ――」


朝子殿……笑顔が悪党だぞ。

この人の真意がいまいち分かりかねる。

親切なのか計算でやってるのか……。


「あゆみんに対しては大半が親切だよ〜。ほら、先ず初めはある程度信頼関係を構築しないとね〜。利用するのはその後で・ね」


また清々しく下衆い事を……

兎に角、朝子殿、聡宮殿と生徒会室に行く事になった。

ちなみに聡宮殿は朝子殿の付き添いそうだ。

一応彼女がヤバイことしない様に監督しているという。


「ここが……」

「そうそう、生徒会室――無駄に大きな建物だよね〜」


朝子殿に案内されたのは、校舎の隣に建っている棟で、生徒会館と言うらしく、校舎とは渡り廊下で繋がっているので上履きでも大丈夫との事だ。


「ちなみに反対側は部室棟だよん」


朝子殿が聞いてもいないのに補足する。

しかし……圧倒されるなぁ、この中に生徒全ての頂点に立つ生徒会長様がいらっしゃるとは……入学式で顔を見ている筈だが顔なんて覚えてないなぁ。


(あゆちゃん……会長はかなりのやり手だから気を付けてね)


朝子殿が耳元でこそりと耳打ちしてきた。

アドバイスは嬉しいのだけれど、聡宮殿の前では止めて欲しい。彼女の眼が怖い……

こんな所で刃傷沙汰にでもなったら停学になってしまう。


「大丈夫。千景もあゆちゃんの味方だよん♪」


聡宮殿はそんな私の姿に脇目も触れず手にした焼きそばパンをじっと見つめている。

さっき食べ損ねたのだろうか、なんか悪いことをしたな……。

そういえば私はまだ昼食を食べていない。

!? これは死活問題では無いか!?

こんな所で立ち尽くしていたらあっという間に昼休みが終わってしまう。

急ぎ足で建物に入り1階の奥――生徒会室に向かう。

『生徒会室』と書かれたプレートの真下にある扉を4回ノックし静かに開ける。

因みにこういう場のノックは4回が望ましい。

一般的には2回だが、それだとトイレの個室で『誰か入ってますか?』なノックになってしまうからだ。


「失礼します」

「月日は百代の過客にして行き交う年もまた旅人……よく参られた仁科歩くん。私が生徒会長のさと――」

「失礼しました」


どこかのボスみたいにブラインド越しにを外を見つめながら意味不明な前口上を話す白服の不審者が居たので思わず扉を閉じてしまった。

取り敢えず見なかった事にしよう。

その横で朝子殿が腹を抱えてうずくまりながら大爆笑している。

何か可笑しい事をしだろうか?

不審者に対しては最良の行動では無いだろうか。

もう一度確認の為、ノック無しでそーっと扉を開けた。


「春は曙あけぼの。やうやう白くなりゆく山際やまぎわ、すこしあかりて、紫だちたる雲の細くたなびきたる――」

「いやいや、そっ閉じした理由そこじゃないですからっ!」


今度は部屋の真ん中にキャスター付きの椅子を置き、そこで足を組んで座っている不審人物に思わずツッコミを入れてしまった。

朝子殿は壁をバンバン叩きながら大爆笑している。酸欠にならないだろうか?


「少しレベルを落として見たのだか、違ったのかな?」

「両方とも中学で習ってます」

「そうか……何はともあれ生徒会室へようこそ、仁科歩くん。生徒会長を務めさせていただいている2年の里見光太郎さとみ こうたろうだ。印籠は持ってないので誤解しないように。因みに某ウルトラさんちの6番目でもなければ、太陽の王子なバイク乗りでもないのでね。今後ともお見知りおきを」


それは漢字を見なければ分からない上に微妙な元ネタな気がする。

兎に角、目の前に居る白制服の元不審人物がかの生徒会長なようだ。

確かに動きに一切の無駄が無いように見える。

やってる事は無駄だらけな気がしないでもないが……。


「うむ、何か失礼な事を言われている気がするのだが……」

「はい、多分気のせいです」

「そうか。では、早速本題に入ろう」


そう言いながら指をパチンと鳴らす。

そうすると何故か隣の部屋から謎のメイドさん達がお茶セットを持って現れたではないか!?

おいおい、この学校はメイドさんまで常駐か?

あっという間に私達の前にアフタヌーンティーセット一式が出来上がった。


「さて……君をここに呼んだのは他でもない」

「一昨日の校門での騒ぎの事でしたら自分は被害者ですので関係はありません」


優雅に紅茶カップを手にしながら話を切り出す里見会長に先手を打って無罪を主張した。何事も先手必勝が私の信条なのだ。


「ん? あぁ、吾妻くんとの一件なら新聞部の過剰報道が原因との報告があったので新聞部には無駄に尾ヒレを付けない様にと注意を促したが……、違ったのかな?」

「いえ――はい、その通りでございます」

「うむ、ではこのまま清い交際を続けてくれ給え」

「承知致しました」


勢いで直立不動してしまっている私に『一件落着』と草書体で書かれた扇子をパッと広げて里見会長がふふっと謎の笑みを浮かべている。

あれ?何か不味ったかな?


「あゆちゃん、その発言はみくにちゃんとのは認めている事になっちゃうよ」

「あっ……」


思わず声に出てしまった。


「謀られた」


そんな所にトラップが仕掛けられていたとは……。

確かにこの生徒会長只者ではないな。


「――この場合はあゆちゃんの自爆に近いよね〜」


朝子殿が私の考えを読んだのかマフィンを貪りながらもニヤニヤしている。


「えーっと、だ。所で用件というのは何なのでございますでしょうか?会長殿」


こっ恥ずかしすぎて居た堪れないので無理矢理話題を変えた。


「少々敬語がバグってる様だが――まぁ、いい。学園生活はどうだね? 藤蒼ココ小中高大一貫エレベーター教育なので中途編入生は何かと肩身が狭そうに見えてしまってね」

「入学3日目でどうかと言われても…至って普通かと思いますが……」


初日に突然同性から告白されたり、2日目に刀剣少女と鍔迫り合いをするのが至って普通とは到底思えないが……後々面倒なのでその辺は無視した。


「そうか……それなら安心だな。まぁ、色々と大変かと思うが、その調子で学園生活を楽しんでくれ給え。無論、純異性同性交遊も自由だ」

「えーと、そのような事を確認する為にわざわざ読んだのですか?」


私の言葉に会長は言いにくそうに広げていた扇子を畳み紅茶を一口含み口を開いた。


「……最近学園内で“神隠し”なるモノが横行していてね」

「生徒の行方不明事件ですか?それなら警察に通報した方が……」

「いや、そこまで深刻オーバーな事では無いのだよ。ふらっと居なくなったかと思えば翌日何事も無く現れる……但し、居なくなってる間の記憶は皆無いと言っている」


会長殿がやれやれと溜息を付く。


「学園としても余り事を大きくしたくないらしくてね。公には伏せられている。生徒間でも噂として出回っている程度だ」

「えーと、秘密裏にそれの調査か何かですか?」

「……吾妻君が今朝から登校してないらしくてね。昨日は部屋にも戻ってないそうなので君なら何か知って――」


その言葉より早く生徒会長室を飛び出していた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る