2節
翌日の中休み、1-Cの教室、自分の机でため息をつく私。
昨夜は荷物の整理はおろかほとんど眠る事すらできなかった。
朝も朝で寮から教室まで何処で待ち伏せているかわからない吾妻先輩に備え準備して登校したのだが……。
学園までの道中全く遭遇せず、校門前に壁のように立ちはだかる正体不明のギャラリーを押し退けやっとのことで教室までやって来た。
しかし、まだ廊下から熱い視線を大量に感じる。
何か犯罪者の気分だ……。
「ハァ~……」
本日23回目の溜め息。
「あれあれ~?仁科 歩ちゃん元気ないな~」
と前の席の女生徒が突然私に声をかけてきた 。
しかし昨日入学したばかりな上、初めて話す相手なので名前が全く分からない。
向こうは私の名を知っているようだが……。
「確かに昨日皆一様に自己紹介はした筈だが、たかが2~3分程度のスピーチでこの私が全員分の顔と名前が一致する筈があるわけがないッ」
「それ、威張れる事じゃないと思うよ」
「……思考を読まないで貰いたいのだが」
「いやいや、きっちり台詞になってるよん♪」
彼女は右手の人差し指をチッチッチッと言う感じに横に振りウィンクしてみせた。
「なぬッ!?迂闊にも考えが口に出てしまったか」
「あはははは~、仁科ちゃんってホントに面白い~」
彼女はけたけたと笑っているのだが此方としては名も顔も分からないのに目の前で爆笑されていて少し面白くない。
「じゃあ、改めて自己紹介。ボクは
「ではモーニングガールと呼ばさせて頂こう」
「いいねぇそれ。ボクも仁科ちゃんをウォーキングガールと呼ぼうかなぁ……」
「――すみません……普通に呼ばせて頂きます」
「え~、別にボクは良いのになぁ」
彼女が非常に残念そうな顔をする
……この人に弄ばれている気がする。
と話が進まなさそうなので真面目に呼ぶとしよう。
「……朝子殿、一つ聞きたいのだが」
「うんうん、何でも聞いてぇ。ボクのテストの平均点以外なら某国の国家機密でも何にでも答えちゃうよん♪」
本当に国家機密を聞いたら答えてくれるのだろうか?と思いつつ彼女に吾妻先輩について訪ねようとした瞬間、右側から強烈な殺気と共に長細い銀色の棒状の物が私の脳天目掛けて振り下ろされてきた。
ガキィンと金属のぶつかり合う音が教室中に響き渡る。
見上げると謎のポニーティル娘が振り下ろした日本刀を私の右腕がギリギリの所で防いでいる。
なぜ右腕が一刀両断されないかというと鉄製の手甲を着けているからであり、吾妻先輩対策で一応身に付けていたからである。
ちなみに私は幼い頃から徒手空拳主体の武術を習っている。まぁ、言って見れば空手の様なものだ。
「
朝子殿がオロオロしながら千影と呼ばれた謎のポニーティル日本刀娘(?)に注意する。
すると彼女は渋々刀をゆっくり鞘に納め、私を睨み付けている。
ハテ? 何か彼女に恨まれるような事をしただろうか?
「失礼だが、何か私が気に触るような事をしてしまったか?」
「……朝子と楽しそうにしてる」
はぁ!?
それだけの理由で私は殺されかけたのか。
「というか、自分も偉そうな事言えないが銃刀法違反ではないか?」
「いやいや、この話にそんな無粋なツッコミ入れちゃいけないよぉ、あゆあゆ~」
「だから、思考を読むなッ――って、その渾名はなんなんだッ!?」
「あはははは~」
やはり朝子殿に弄ばれてるような気がする……。
「やっぱり楽しそう――」
謎のポニーティル日本刀娘がそう言いながらまた抜刀しようとする。
それを必死に止める朝子殿。
「えっとね、彼女は
でね、この子とても人見知りで恥ずかしがり屋だから…」
「成る程……それで私に朝子殿を寝取られると思って、私を排除しようとした訳だな」
「寝取るなんて…あゆちん大胆~……と、冗談はさておき。千影には後でよ~く言っておくからさ……許してあげてね?」
「許すも何も、別段気にしていないので朝子殿も気に病まないでくれ」
「うん、ありがとね――」
そろそろ本題に戻さないと休み時間が終わってしまう
「それで聞きたいことなんだが……」
「わかってるよ~。みくにちゃんの事でしょ?」
「何故分かる。お主エスパーか何かか?」
私のツッコミにキョトンとした顔で朝子殿が答える
「だって~、あゆりんとみくにちゃんラヴラヴなんでしょ?昨日も校門で初対面なのに顎クイに熱い抱擁……終いには2人で手と手を取り合って駆け落ちしたとか――もぅ、あゆぽんも隅に置けないよね~」
朝子殿がいやらしい笑みを浮かべながら私に説明する
その横で日本刀ポニーティル娘改め、聡宮殿が顔を真っ赤にして『顎クイ、抱擁……駆け落ち……』とワナワナしながら呟いている。
何を妄想しているのだろうか?
もう既にこの学園公認の仲になってるのか!?
つか、あの状況をどう解釈したらそんなアホな噂に飛躍するのだ?
ここの生徒の目は飾りなのか?
それ以前に駆け落ちしたならこの場に居ない筈だが……
「そう言う風にこの学園瓦GL版の号外に書いてあるよん♪
ちなみにBL版には1-C…つまりこのクラスの榊くんと真神くんの
「なッ――」
その言葉と共に斜め後ろの男子生徒が盛大に椅子からズッコケたが……そこら辺は気にしないで置こう。いや、寧ろそっとしておこう。
「ちなみに内容は――」
「ストーップ、これ以上はR指定になる」
「そう?コバルトあたりなら全然普通だと思うけどなぁ……」
あっけらかんとした顔の朝子殿が手にした新聞の様なB4プリント紙にはモノクロだが昨日の顎クイ写真が一面に載っている。
あ~確かに絵になるわな……って、違うだろ
まぁいい。今は少しでも吾妻先輩の情報を得るのが先決。
「そう、あづ……」
「あらあら、何処の何方が私の噂をしているとか思ったら……歩でしたのね。少し嬉しいわ」
朝子殿に話を切り出そうとした瞬間何故か吾妻先輩が腕組みをして机の上に座っていた。
「○◇○!○□○!!○△○!!!✗✗✗!!!!」
あまりの唐突さ故にツッコミが言葉にならない。
この人実は忍者か。
「フッフッフッ、壁に耳アリ障子にメアリーちゃんですわよ」
そう言いながら窓の外に不自然に引っ付いている迷彩服を着たクマのぬいぐるみを指さす。
……ここ、三階でしたよね。
「私が開発した噂聴き取り用高性能集音器メアリーちゃん1号を舐めて貰っては困りますわ」
その言葉に窓の外に居るクマのぬいぐるみがちょっと照れた様な仕草をする。
チョット待て、何故照れる?
最近のぬいぐるみは感情が在るのか?
「さて……来たついでに昨日の日記を回収しようかしら」
「あー、はいはいどうぞ」
ツッコミ疲れしたのでとりあえず昨日渡された日記帳を吾妻先輩に渡す。
昨晩は寝付きが悪かったので一応書いては見たが…
それを受け取りまじまじと読む吾妻先輩…
なんか、宿題の添削をされてる気分だ。
「――これでまた、歩の私へのラヴが上昇しましたわね。――しかし、まさか私の歩が寮で一人部屋だなんて、さぞ一人寝が寂しい事でしょうね」
「なんで、あらぬ方向に話が飛躍するんですかッ!!」
「これは由々しき一大事ですわ。でも私に任せなさい、早速歩の部屋への転入手続きを…」
「やめれェッ!!」
こんな濃い人と四六時中一緒なんて、想像するだけで恐ろしい。
「みくにちゃん、みくにちゃん。2年生は1年と同室になれないんじゃなかったっけ〜?」
朝子殿が助け舟を出す。そういえば他学年の同室は許されてないのだったな。
「その辺は心配しなくても生徒会副会長の権限で――」
「えー、でもそんな不正、早乙女ちゃんが許さないと思うよー」
「うっ、確かに……」
ちなみに早乙女さんとは大学生で女子寮の寮長であり熊殺しのあだ名を持つ泣く子も黙る鬼寮長らしいのだが、自分が一昨日会った感じだと面倒見のいい姐御と言う感じだったが……。
「そうしましたら別の手を考えましょう。楽しみにしていなさいね、では……ごきげんよう」
何故か天井から下降してきた三日月型のゴンドラに跳び乗り、吾妻先輩は上の階へと消えていった。
この学校にはどんだけトンデモな仕掛けがあるのだ!?
「イイナー、ボクもお月さまのゴンドラ乗りたいなー」
「朝子と……ゴンドラ……///」
羨ましがっている朝子殿とまた変な妄想している聡宮殿を横目に本日24回目の溜息。
私、ノロわれてるの……かな?
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