Is Life Beautiful ?
竹屋 智晶
春は出会いの季節と言うけれど...
1節
――春は出会いの季節と言うそうだが…。
私、
現に今、入学式を終えて寮への帰途に着こうとしている私の前に立ち塞がる上級生の女性にはそんな危険なオーラが凄く見受けられる。
「仁科歩さん、貴方に並々ならぬ好意を抱いているわ…私、
十数分前ーー
机の中に手紙の様なメモ書きが入っており
一言、「校門前で待つ」と書いてあった。
宛先不明、差出人不明…怪しさ炸裂であった。
まぁ新手のイタズラか、二年生が一年の時に入れたまま忘れ去られた物だろうとシカトを決め込むつもりだったのだが…
まさか校門前で待ち伏せされているとは…
いや。元々校門で待つと書いてあるのにノコノコとここを通ってしまった私が間抜けなだけだが。
そして、開口一番。
何故か告白された。
しかも初対面の相手にだ。
一体何なんだ?
最初に言っておくが、私は戸籍上では立派な女だ。
多少言動が男っぽいのと小柄な体型と言われがちだが…
制服も女生徒用のブレザーを着ているのでどこからどう見てもそこら辺にいる至って普通の女子高生だ。
あっちも私と同じ制服を着ているから女生徒なのだろう。
そもそも女装している男子なら私の様な小娘には興味すらないと思うしな。
顔は……知的な美人と言うのだろうか?
ショートのボブヘアとメガネに隠れた切れ長の目が少し近寄り難い雰囲気を醸し出している様に見えるが、充分モテそうなビジュアルだ。
そう、私がもし男子だったら高嶺の花として崇拝しているかもしれない。
端的に言うと、図書室で一人で優雅に難しい本でも読んでいるような感じである。
――が、制服の上に羽織っている白衣がそのイメージを完封無きまでに破壊してしまっている。
薬剤師とか、どこぞの悪の天才科学者が着ているアレだ。
それのせいで先程の図書室云々が一転して科学実験室で薄ら笑いを浮かべながら怪しい薬物の実験をしているようなイメージに半ば強制的に書き換えられてしまう。
そしてさらに校門の前で仁王立ち……それだけでも普通とは程遠い。
どうする私!入学早々にいきなり絶体絶命か?
それに物語開始四、五行目で告白されるとはどういう了見なのだ。
普通ならこう…もっと1クールぐらい話数稼いでからその手のイベントは起こるものだろう!
物事の段取りをすっ飛ばしてどうする!?
「あら、感動のあまり、言葉失ってしまったのかしら?」
唐突な出来事に対し意味不明なツッコミをして混乱している私を尻目に吾妻先輩が更に追い討ちをかける。
冷静になって考えろ、自分。
この状況を打破できる選択肢は……
A:諦めて、彼女と交際する。
―論外だ。そんな事をしたら私は明日から
学園中の生徒から白い目で見られかねない。
B:無言で走り去る。
―一番無難なように見えるが、相手に妙な誤解を与えかねない。
特にこの様に何でも自分の都合良く解釈する人にこの行動は逆効果だな。
C:ハッキリと断る
―まぁ、これが一番妥当かな……。
と、この間の
「え~とですね。お気持ちはとても有り難いのですが……この場合、
ペコリと頭を下げてその場を去ろうとしたが、吾妻先輩にガシッと左肩を掴まれて
「大丈夫。その辺は対応済みですから」
さらりと言われた。
た、対応済みなんかぃッ!!
そしてやれやれと言った表情で
「第一、そんな事気にしていたらこの21世紀は生き残れなくてよ」
「そんな事がまかり通る世の中なら生き残りたくないわッ。 大体、あなたと私は初対面の筈だ」
いくら他人の顔と名前を覚えづらい私にでもそれ位は分かる。
全然会った気がしない……と言うか此処までインパクトがあるキャラなら一度見たら誰だって忘れられないわ。
今夜の夢に出てきそうだし。
「忘れてしまったの? 以前に会っているわよ」
吾妻先輩がまたさらりと言う。
んな馬鹿な……。
「そう……あれは今から……」
と微妙に遠くを見ながら呟いた。
その姿が妙に懐かしく見えてしまう。
「そう……あれは今から小一時間程前、入学式の壇上に居た私は新入生の中に混じっていたあなたを一目見た時から恋に落ちてしまったのよ〜」
「何じゃそりゃぁぁッ!!」
全くの初対面ではないか?
私のツッコミに動じる事も無くバックに出所不明の桜吹雪とドコから流れているか分からないBGMと共に吾妻先輩がどこから出したのかマイク片手に語っている。
そして、彼女が手にしている謎のリモコンのボタンを押すと何故かTVモニタが地面からせり上がってきて回想シーンの如くその時の映像を流していた。
――何時撮影して,何時編集したの?
しかもご丁寧にBGMと本人生アテレコによるナレーション付きで。
まぁ話を要約するとだ、入学式の時に生徒会副会長である彼女は壇上から新入生を物色……、もとい、眺めていた時にふと最前列に居た私と目が合った際に微かに微笑まれ、その瞬間から恋の花が咲いてしまったとの事。
……全然記憶に無いんですけど。
生徒会長の祝辞が剰りにつまらなくて一回欠伸をした位だが……。
まさか、それをそう解釈したのか?
恐るべし乙女のぱわー……。
「さぁッ!早く貴女も私の愛を認めなさいッ」
いつの間にか校門の柱まで追いつめられてしまっていた。
しかも迫られている挙句、人差し指で顎クイされている。
周りのギャラリーからは黄色い悲鳴と何故か携帯のシャッター音の嵐。
俯瞰的に見たら絵になる構図かもしれないが、私にそっちの趣味は全く無い。
しかしこんな状態で彼女に唇でも奪われようものなら、私の夢に描いた普通の学園生活は色々な意味で終わってしまう。
正に絶体絶命のピンチ。
「えーと、お互いの事もよく知らないのにいきなり付き合えと言われても…その…」
「それもそうね。まぁ私は歩の事はほとんど知っているのだけど……確かに、それも一理あるわね――」
苦し紛れに言った言葉に対しまたもサラリと返される。
ちょっと待てぃっ
私のプライバシーはそんなに簡単に漏洩しているのか?
しかも何気なく名前呼びしてるし。
まぁ、吾妻先輩には納得していただけたようで安心したのだが
「では私の事をよく知って貰うために今日から交換日記を――」
と言いながら白衣の内ポケットから花柄の可愛らしい日記帳らしきものを出して私に差し出す。
何処で用意した?
と、言うか白衣とのギャップで怖いんですが……。
「なんでですかッ!?」
「あら、古来より健全なお付き合いの第一歩は交換日記と相場が決まっていてよ」
「あなたはいつの時代の人ですかッ」
「それでは明日の昼休みまでに書いて私に提出する事。よろしい? では――ごきげんよう」
全然話を聞いてくれず、日記帳を私に手渡し白衣を翻して、その場からふははははは――と笑いながら校舎の方へと走り去る吾妻先輩。
どこかの怪盗ですか? あなたは……。
ハァ……と溜め息を付いてふと辺りを見回すと何故か私を中心に人集りが出来ている。
しかも皆、羨望や嫉妬、一部同情の眼差しで私を見ながらひそひそと何か話しあっている様に見える。
その光景があまりにも居た堪れない。
あ、そうそう。寮に戻って荷物の整理もせねばな。
足早にその場を逃げた。
ちなみにその夜は荷物の整理も早々に切り上げ床に就いたがほとんど眠れなかった。
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