ハンバーグの中身
tori tori
第1話 男
記憶というものは、実に曖昧なものである。
其れとは逆に、記録というものは確かなものである。
記憶という不確かなものを記録している記憶修理人という不確かな存在と、記憶を消された男の話。
夜の闇が訪れる。
暗い空に浮かぶものは何一つない。
寒々しい通りにぽつりぽつりと立っている街灯の灯りが、頼りなく辺りを照らしていた。
家も、店も灯りが消え、町中が寝静まった頃、とある一軒の小さなレストランにはまだ灯りがともっていた。
レストランの中には男以外、誰も居ない。
静まり返った店内の厨房から、男が玉葱を刻んでいる音だけが響いている。
ほんの数時間前までは、店内は客で溢れ、騒がしかったというのに、今は男の心音が聞こえてきそうな程、しんとしている。
男は玉葱を刻む手を止め、床に置いて有るシーツに包まれた其れに目線を落とす。
シーツの上からではあったが、其れの美しい曲線が妙に生々しかった。
「雨・・・」
雨音は少しずつ激しさを増していく。
男の頬につたう涙。
きっと玉葱のせいなのだろうと男は思った。
白いシーツの中の其れは、確かにほんの数時間前までは、男と話をしていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録(無料)
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます