ライターズオブメルヒェン
Ai_ne
序章
少年少女は月夜に輝く
「ねぇルシア、この世界の外はどうなってるんだろうね」
長い髪を結んだおっとりとした目をした女のような少年が丘の上で横になって流星の降る夜空を見上げながら、幼馴染の少女にそう言った。
質問などではなく、ただのたわいもなくどうでもいい雑談のネタだった。少年にルシアと呼ばれた黒い短髪の少女は少年の横に座り込んで答える。
「外の世界なんて無いわ」
少女の回答は冷ややかだった。
「なんでそう言いきれるのさ」
少年は堪らずそう言い返す。
「お父さんやお母さんが言ってたもの」
「ルシアはロマンが足りてないと思うよ」
少年はルシアにそう言いつつも外の世界なんて存在しないと、心の奥底では思っていなくは無かったが自分がそれを認めたくないだけだった。
この世界、この土地は壮大で広い。
けれどこの世界の端には霧に包まれた森が存在していた。
ずっと続いてると言われる霧の森。
その森を抜けた先を見たものは存在せず、その奥は蛇が出るとか、外に違う世界があるとか色々な憶測が立てられていた。
大人達は少年を含めた子供達にそこには決して行かないように強く念を押していたし、それを破る子供も不思議といなかった。
「そう言えば今日はお城で舞踏会があるわね」
ルシアは話をすり替えるようにパーティーの話をした。
「僕達には関係ない、あんなの金と時間を持て余した貴族の遊びさ」
少年はそうぶっきらぼうに答えて横にしていた身体を起こして城に目線を移した。
白く綺麗な城。
少しだけ貧乏な少年にとってそこは眩しいほどに輝いて見える場所であったが、同時にどうしようもないほど妬ましい場所でもあった。
「私も将来はあのお城で踊れたりするのかしら」
遠く、純粋な目で城を見つめるルシアを見て少年はため息をついた。
「あんな場所、僕が稼いでいくらでも連れてってあげるよ」
目線を城に戻してそう呟いた。
それを聞いたルシアは目線を少年に戻す。
「……約束よ」
「うん」
ルシアにとってその夜はいつにも増して星が輝いて見えていた。
その翌日。
昼間はパン屋の両親の手伝いをする為に少年はまだ日が登らないほど朝早くに起きてパンの仕込みを始めていた。
まだ15ながらも少年の腕っぷしは大人達に街で1番と言わしめる程だった。
「この材料は小屋か……」
足りなくなった材料を取りに家を出て少し歩いて小屋に向かう。そして材料を腕いっぱいに抱えて戻っている時だった。
「いてっ」
少年は何かにぶつかり、材料の入った袋を落としてしまう。
「あら、ごめんなさいね」
少年が屈んで袋を拾い、目線だけを上に上げた先には女が居た。金の刺繍が入ったマントを身に着けており、整えられた灰色の髪、燃える炎のような赤い瞳。
一目見ただけでこの街の人間ではない事が分かった。
「いや、大丈夫です……こんな早くに急いでどうしたんですか?」
この時間帯にここまで急ぐ女に違和感を感じた少年は立ち上がりながらそう尋ねると女は笑顔のまま答えた。
「少しだけこの……いえ、お城に用事があってね。それじゃあ失礼するわ」
女はそう言ってすぐに歩いていってしまった。
やっぱり貴族かと少し妬ましく思いながら少年は家に戻って早々と準備を進めた。
そして、正午が過ぎて店も少し落ち着きを見せた時だった。
「大変!」
そう言って息を切らしながら店に飛び込んできたのはルシアだった。
「ルシア、そんなに急がなくてもパンはあるよ」
能天気に返す少年をルシアは睨んでから話をした。
「そうじゃない! お城が燃えてるの!」
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