ラ王 デン説

ユキ丸

プロローグ   パンダ男、、

 ざあわわわ、ざあわわわ



 笹藪ささやぶを搔き分けてゆくと、黒と白色の巨漢きょかん胡坐あぐらをかいて居る背中が見えました。



        ざあわわわ、ざあわわわ




「ラ王様、では今年の日照ひでりは山の神ヤムのせいだとおっしゃるのですね」

「は、はい、かしこまりました」

「確かそれは、、、、、、」

「は、はあ」

「おっしゃる通りでございます」

「ははあ、では、そのように」



 ソ皇子は、そっと黒と白色の巨漢の背中に近づいて肩に手を掛けました。

 ビクッと大きな体が痙攣けいれんして、振り返りました。

「お、おう、これはソ皇子おうじ様」

 草むらに、さささささっと隠れた者がおりました。ちらりとその尻尾を見たような気がしましたが。しかし、そこには、その巨漢パンダ男が座って居るだけでした。

 ソ皇子は、考案中の “文字” を書いた木片もくへんをパンダ男に黙って見せました。ソ皇子は、話すことが出来ない、つまり唖なのでした。


「なんと可愛らしい文字でしょう、ソ皇子様。これは、、、、、、、山、でしょうか?」

 ソ皇子は頷きました。

「こちらは、、、、、、雨」




「山に雨が降るとおっしゃるのですね?」

 ソ皇子は首を振りました。そして、三つ目の文字を指さしました。



「神、、、、、、山に雨の神が居る、、、、、、、そう云うことでしょうか?」


 草むらの陰で、それをラ王は聞いて居りました。ラ王は、で、パンダ男の前以外は、その身を人間に変化へんげさせて、現れるのでした。




 その年の夏は、雨が降らず、カンカン照りの日照りが続き、畑の稲は多くが干からびて居りました。

 ソ皇子が立ち去ると、再びパンダ男の前にラ王が姿を現しました。


「あれ(ソ皇子)は、話が出来ぬが、変わった能力を持ってる。よろしい。青山せいざん祈祷師きとうしのハを送ろう」

「ははあ、、、、畏まりました」


 

            ☆



 小高い丘の上に茉莉花マリファナやぶが在りました。その藪の真ん中に、ハは住んで居りました。ハは、熱した岩の上で、茉莉花の葉をほうじて居りました。



    ざあわわわ、ざあわわわ

       ざあわわわ、ざあわわわ、、、わ




 茉莉花の藪が揺れました。ハの背中に緊張が走りました。

「ラ王様、、、、、、」

「よく分かったな」

「私めは、祈祷師でございます。そのくらいのことは、分かりまして。して、何か大事でも?」

「そうなのだ、さすがはハである。この日照りのことなのだ」

「恐らく、そのことと、私めも考えて居りました」


「ソ皇子が云うには、青山せいざんに雨の神がおわすとぞ」

「、、、、、、、はああ、青山せいざんですか」

「何か問題が有るか?」


「はい、青山は死者の山。生きている者が近づくのは至難の業しなんのわざでございます」

「ハよ。そなたに出来ぬことはないと思って居ったが、、、、、、、」

「ラ王様、おっしゃる通りでございます。私め、何としても青山せいざんの雨ノ神の元へ参って参ります」

「よく云った。よろしく頼むぞ」

「、、、、、、、はい」



 ラ王は、再びの姿に戻り、藪の中に姿を消しました。

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