第1話 勝ち組☆一国一城の領主様



『一国一城の主』


 義明の感覚だと、それは自分の家を手に入れた者が、自信と自慢を表現するために使う男の言葉だった。


 基本的に家を手に入れるためには数千万というお金、もしくはその金額のお金を支払うと決める覚悟が必要となる。

 もちろんそれだけの金銭を手に入れること、払う覚悟をすることは簡単なことではない。

 金銭を手に入れるのはもちろんのこと、未来の自分を担保にして大金を払う覚悟だって、何日何十日と悩んで決めることになるだろう。

 だからこそ、それを成して家を手に入れた男が自分を誇らしいと思うこと、他者に自慢して称賛されたいと思うことは、人としてとても自然なことだと言うことができる。



 さて、俺、御門義明=クリスティアーノ・アクアレイクはアクアレイク王国の王子である。

 母は七人の女王のうちの一人で、今は7位に落ちたとはいえ、元は第1位の女王様だ。

 女王ということは元女王候補なわけだが……ここで一つ質問するが、女王候補の条件を覚えているだろうか?


 そう、女王候補と認められる条件は『王族の血を持つ、領地持ちの女』、だということだ。


 ここで注目してほしいのは『領地持ち』という部分だ。

 領地というのは国や王によって様々な形態を持つものだが、アクアレイク王国の場合、王侯貴族に土地を預けて、しっかり土地と民を治めてください、税を集めて納めてください、というシンプルな形となっている。

 土地はあくまでも国のものだが、大枠の決まりは税を納めることのみで、それぞれの領主にかなりの自由裁量が認められているのだ。

 税をいくらに設定しようと、領地の運営方針をどう決めようと、領主になった者の自由なのである。


 もちろん自由と言っても、常識的な範囲というものは存在している。

 突然、来月から税を10割取りますと宣言されて、納得する領民はいない。

 そもそもそんな決定をするような領主を女王が許しはしない。


 ただ、国が女王の顔体かおからだなら、領地は領主の顔体である。

 王侯貴族の女たちは自らの強さと美しさを誇りとしており、それは領地経営にも反映されている。

 領地を汚し、領民に汚ないものを見るような目を向けられるなど、彼女たちにとっては屈辱の極みである。

 自分にも許さないし、他の領主にも許しはしない。

 ゆえにアクアレイク王国ではそのような悪政を敷く領主はこれまでの歴史の中で存在したことがなかった。

 そんな彼女たちへの信頼と歴史こそが、王国がシンプルな領地形態を許す理由なのである。


 ここで王国独自の領地形態を一つ紹介するとしよう。それは女王統治領というものだ。

 これは名前の通り、女王たちが統治する領地である。王都を囲むように七つの街があり、その一つ一つをそれぞれの女王が統治することになっているのである。

 つまり女王に選ばれる者は元から治めていた領地と女王領の二つの領地を持つのだった。



 さて、長々と前置きを置いたりしちゃたわけだが、要は何を言いたいかというと、


 俺、領主様☆一国一城の主だよーん。という話である。


 持ち家? 数千万?

 あっはっは、小さい小さい。小さすぎて見えないなぁ。わかちこ。


 義明的にわかりやすく言うならば、税金を自由に使える都知事。町の条例を好き勝手につくったりできちゃう府知事なのだ!


 これを勝ち組☆と言わずしてなんと言う!!


 ………


 え? なんだその目?

 その目だよ、その目! わかってると言わんばかりのその生暖かい目はなんだって言ってるんだよ!


 落ちはなんだって?

 ああ、ああ!

 今説明してやるよ! こんちくしょー!!





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