ブラックギルドを追放されたので凡人治癒師は“俺だけスキル”『是々非々』で新しく集めたポンコツスキル仲間を最強に仕立て上げてスーパーなギルドへ成長させる

山田 マイク

第1話 追放


「お前、もういらねえわ」


 森の奥深くでいきなり。

 俺はギルドをリストラされた。

 ここからはもう一人で帰れと言われた。

 実はお前のことみんなウゼーと思ってたんだって。

 正直、最近は足手まといだし飯は人より良く食うし、それから何といってもその――


 お前の“顔”が気に食わねえんだ。


 そう言われた。


 俺たちは結構見た目も重視してんのよ。

 ほら見ろよ。

 お前以外、イケメンとイケジョしかいねーだろ。

 なんかお前がいると顔のレベルが下がんのよ。

 だから悪いけどよ。


 お前いらねえわ。


 そう言われた。


 俺は一人で森を降りながらブツブツと文句を言っていた。

 あのクソ野郎どもめ。

 これまで尽くしてきたのに。

 俺の魔法で助けられたこともあったくせに。

 そりゃあまあ……最近、俺は魔力の伸びがイマイチだし。

 新しい魔法の覚えも悪いし。

 もう完全に伸びしろなさそうだし。

 それに比べて他のメンツは今がまさに成長期って感じて能力伸びまくってるし。

 出来るだけ早めに切り捨てておこうってのは百歩譲って分かるとしてもだ。


 なんだよ。

 顔のレベルが下がるってよ。


 別にいいだろ。

 俺みたいなのが一人いてもよ。

 たしかに俺はあいつらと違って十人並みの容姿だよ。

 スタイルがいいかって言うとそうでもないよ。

 じゃあギルドのムードメーカーかと言えば、そんなことはないよ。

 どっちかというと根暗だよ。

 癒し系でもないし。

 笑顔も気持ち悪い。

 そういうマイナスを吹っ飛ばすようなとっておきの特殊能力があるかっていうと、それもないよ。


 ……なんか悲しくなってきた。

 俺、マジでお荷物だったのか。


 でもよ。

 ギルドって、そういうもんじゃねえだろ。

 仲間って、そういうもんじゃねえだろ。

 損得勘定だけじゃねえだろ。

 なんつーかこう……もっと熱い絆だろ。

 ここまで苦楽を共にしてきたのに。

 あいつら、あっさり、縁を切りやがった。

 大体、こんな山奥で言わなくてもいいだろうが。

 たった一人で下山するなんて惨めすぎるだろうが。


 なんて終わらない愚痴をグチグチとめどなく垂れ流しながらとぼとぼ歩いていると。

 いきなり、どん、と壁にぶつかって、顔面を強打した。

 痛って、と顔を抑えながら、目線を上げた。

 すると、緑色の鱗状の木皮をした幹が目の前にあった。

 んだよ、いきなり現れてんじゃねーよ。

 俺は思い切り、その“樹”を蹴り飛ばした。

 

 グルルル……


 すると。

 その樹が、何やら唸り声をあげた。


 嫌な予感がした。

 体中から冷たい汗が噴き出した。

 これ――植物じゃねえ。


「グルルル」


 その巨大な“なにか”は喉を鳴らしながら、ゆっくりと振り向いた。

 見上げるほどの巨体。

 突き出た腹にくすんだグリーンの鱗。

 凶悪な牙と、そこからちろちろと漏れ出る炎。

 間違いない。


 ミスト・ドラゴン。

 このエリアに、こんな強いモンスターいんのかよ。


「……はは。なんだこれ」


 思わず乾いた笑い声が漏れた。


 とことんついてねえ。

 あいつらがいたら、なんとか勝てただろうけど。

 一人で、こんな化け物に勝てるわけがねえ。


 そこまで考えて、思わずチッと舌打ちをする。

 この期に及んであいつらがいたら、とか。

 俺って奴はどこまで情けねえんだ。


 ドラゴンはゆっくりと体の向きを変えた。

 ずしん、ずしんと地面が揺れる。

 鋭い眼光で俺を見る。

 牙の隙間から粘度の高いよだれが垂れる。

 餌を見つけた表情。

 捕食者の本能丸出しだ。


 にへら。

 笑いが出た。

 頭がおかしくなっていたのかも。


「運がいいな、ドラゴン野郎。無傷ただで食いもんゲットだ。もうどうにでもしろよ」


 俺は両手を広げた。


 ドラゴンは首を傾げた。

 それから少し体を前傾させ、牙を剥きだした。


 終わった。

 あーあ。

 つまらねー人生だったな。


 そう思って目をつむった、その時――


「どどど、どいてくださーい!」


 いきなり、女の子の声がした。


 目を開けると、巨大な鎌を担いだ少女が宙を舞っていた。

 俺は咄嗟に、後ろに飛びのいた。

 少女は「はわわわわわ」と困惑した声をあげながら、鎌を振り回した。


 いや――こいつは。

 鎌の方に、振り回されてるのか?


 少女の持っている鎌はのたうち回るように暴れていた。

 それに、少女の身体がついて行っているような有様だ。


「きゃー! ちょ、ちょっと、アダマスさん! 大人しくしてください!」


 少女と鎌は俺とドラゴンの間でバタバタとのたうち回った。

 

 俺はおろか、ドラゴンの方も、一瞬、あっけにとられた。

 しかし。

 すぐに腹ペコの龍は本能を思い出した。

 餌が二つに増えたとばかりに、舌なめずりをした。

 それから「グアワッ」と咆哮をあげながら、少女の方へと首を伸ばしていった。


 まずい。

 助けなければ。

 そう思った刹那。


 ――ザシュ。


 ごとり、と龍の首が落ちた。

 

 少女が、その手に持った鎌が。

 凶悪なドラゴンの首を、見事に斬り落としていた。


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