第14話 青春の色
「違う。カーブの時はもっとインコースを攻めるのじゃ。」
桟橋の上からフレッドさんの激が飛ぶ。
猛スピードで水路を駆けるボートが上げる水しぶきに視界を奪われながらもフレッドさんに言われた通りインコースをもう一度攻める。
ボートに取り付けられたアクセルを踏み込みながら木製のハンドルを思いきっり右に回す。
ボートの後尾が横滑りさせながら、曲がり角を起点に扇のように綺麗に曲がることが出来た。船体が真っ直ぐになると同時に私はアクセルを思いっきり踏み込んだ。
「そうじゃ。その感覚を忘れるな。」
ボートのスクリューが水を吐き出す轟音の裏でフレッドさんがそう叫ぶのが聞こえる。
私達はベラルーシのボート大会に出るために
フレッドさんの宿【白ナマズの尻尾】の脇の水路で【魔道具付きボート】の操縦の猛練習をしていた。
私は最初ボートレースと聞いた時、てっきりオールでボートを漕ぐものだと思っていたのだが、さすがは商業で栄えた水の都ベラルーシ。
大会は皆【魔道具付ボート】で参加だそうだ。
そうそう【魔道具】の説明をしておかなければならない。
魔道具とは簡単に言うと魔力を付与された道具のことである。
魔法は詠唱で力を発動するが、魔道具は道具に描かれた紋様、【魔法陣】が特定の条件で魔力に触れることで発動する。
フレッドさんが貸してくれた魔道具付きボートも同じ原理で動いている。
ボートの運転席に備え付けられた木製のアクセルパットとブレーキパットに魔法陣が描かれていて、操縦者がそれを踏むことで、操縦者の魔力が魔法陣に伝わり、船尾に備え付けられたスクリューが回るのだ。
操縦者の魔力を使うため、長期間運転すると魔力切れになってしまうが、【魔法陣】は魔力のエネルギー伝達率が高い分、詠唱を使う魔法よりも疲れにくいというメリットもある。
【魔道具】自体、魔導士【ジョブス】によって近年発見された新しい分野であり、未知の部分も多いが、その分大きな可能性を秘めた分野なのでこれからの発展も楽しみである。
「やるじゃねぇか。マルコ。操縦者はお前で決まりだな。」
ボートの後ろに乗っていたキースが私の肩を掴みながら言う。
「そうね。悔しいけど、マルコで決定ね。ホントは私が操縦したかったけど……」
同じく私の後ろで残念そうにそう言うシエルは練習中にフレッドさんの船を三回転覆させ操縦者をクビになっていた。
「ガーディアンの二人には僕をしっかり守ってもらわないとね。」
私はボートを操縦しながら笑って答える。
ベラルーシのボート大会は、妨害あり魔法ありの何でもありの大会だそうだ。
そのためガーディアンを二人ボートに乗せることが許可されている。
ガーディアンの役割は妨害からボートを守ることと、他のボートへの攻撃である。
やれやれ、激しいレースになることは必至である。
「そろそろ戻ってこい。」
桟橋の上でフレッドさんが手を振ってそう叫ぶので、私はアクセルを踏んで桟橋に向かう。
夕日が半分沈んだ水路から突き出た桟橋に立っているフレッドさんは私達側から見ると逆光で影になっていて切絵のようだった。
桟橋にボートを横付けするとフレッドさんの皺だらけの腕が私の手を掴む。
「だいぶ上達したな。」フレッドさんは笑ってそう言うと私を船から引き上げる。
新しいことに挑戦するのは何度生まれ変わってもいいものである。
そしていつの時代、どの世界でも呑み込みの悪い私は何かを習得する時には日が暮れていた。
逆上がりに、部活動、それに魔道具付きボート。
何か確かな手応えを感じた時に眺める夕日の色は、私の青春の色そのものである。
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