第12話 Country boys and A girl.

久々のベッドでの目覚めは最高だった。

やはり揺れのない陸地というのは信頼感が違う。

私達マルタイの民も所詮は人間である。

陸と離れてそう長くは生きてはいけないのだ。


昨晩すっかりよく眠れた私達は、昨日会った船着き場の主人が経営する宿

【白ナマズの尻尾】で起床する。

気の利いたサービスはなかったが、ベッドにシャワーと簡単な朝食付きで5ゴールドなら若い旅人には十分良心的な宿である。

なので私達は話し合ってとりあえず一週間この宿に泊まることにした。

ベラルーシを観光するならそれくらいの日数がかかると私達は踏んだのだ。


「おっ。出かけるのか?」白ナマズの尻尾の主人の【フレッドさん】が宿から出ようとする私達に声をかける。


「はい。これから街を歩いて散策しようと思います」と私が答える。


「ベラルーシを見て回るなら、船を使った方が便利だぞ」フレッドさんが長い髭をさすりながら言うとキースが、


「でも船の停泊代を取られるだろう?船を停める度に金取られてたら、俺らすぐに文無しになっちゃうよ」と話に割って入る。


それを聞いたフレッドさんは「ちょっと待ってろ」と言って宿のカウンターの引き出しを開けて探し物を始める。


「おっ。あったぞ。ベラルーシの船着き場の定期券だ。これを見せれば、どこでも無料で船を停められるぞ」


フレッドさんはそう言って私達に【ベラルーシ市民特別割引定期】と書かれた券を私に渡す。


「こんなものをお借りしてもいいのですか?」と私が聞くとフレッドさんは、

「おお。ベラルーシ観光を心行くまで楽しんで来い」と言って私の肩を叩いて笑う。


フレッドさんのご厚意に甘えた私達は、昨日と同じ水路を使って街の中心部へ向かう。

私のお目当ては「本屋」である。私は目抜き通りでそれらしい店を見つけたので近くの船着き場に船を停める。


管理人にフレッドさんから借りた定期を見せると、「はいよ。」っと言って快く船を停めさせてくれた。


目抜き通りでは地元の人と観光客が混ざり合い、賑わいを見せていた。

中には人族以外の観光客もいて、私達はそこで初めて【ダークエルフ】を見た。


五人組のダークエルフの女性が談笑しながら、通りを歩く姿はベラルーシでも珍しいらしく人の目を引いていた。当の本人達はあまり気にした様子はなく、美しく長い足で堂々と通りを闊歩している。


談笑に夢中になっていたダークエルフの一人のくびれた腰にシエルの顔がぶつかる。

ダークエルフは気高く、滅多なことでは謝罪はしないと聞いていたがこのダークエルフはシエルの方に向き直ると「ゴメンネ、チイサナ、オジョウサン」と言って素直に謝った。


全く、偏見とはどの世界にでも存在するものだと私はこの時つくづく痛感した。

人族もそれ以外の種族にも個人差というものがある。

いい人間もいれば悪い人間もいる、謝るダークエルフもいれば謝らないダークエルフもいる。それだけのことである。


そうそう、ダークエルフにぶつかられたシエルだが、ぶつかられた後しばらく様子がおかしかった。せっかくの白い頬をずっと赤く染めているし、赤い瞳はどこか遠くを見ていて、心ここにあらずと言った様子だった。

「あのお姉さん、いい匂いだったなぁ。それにスタイルも、へへっ」

といって不気味に笑うシエルは幼馴染の私から見ても気味が悪かった。

どうやら、ダークエルフの女性はシエルの中で眠っていた何かを目覚めさせたようだ。


私とキースは、そんなおかしくなったシエルを連れてお目当ての本屋に入った。

さすがは水の都ベラルーシの本屋といった品揃えで、私は何を買うか相当迷ったが、マゼラン著の【海獣大百科】を買うことにした。海賊のドレークに経験不足を指摘された私は海の魔物についてもっと知る必要があると思い、この本を買うことにした。


シエルも本に興味があったらしく、二冊の本を手に取りじっと思案していた。

「シエル、まだ決まらないのか?」かれこれ一時間は悩んでいるシエルに痺れを切らしたキースが言う。  


「決まったわ」シエルは面倒くさそうに私達にそう言うと【魔導士入門書】と表紙に書かれた本を本棚に戻して、【ダークエルフの口説き方】と書かれた本を本棚に持っていった。


目抜き通りの散策を楽しんだ私達はそろそろ、日も暮れて来たので宿に帰ることにした。夕方のベラルーシも美しく、帰り道の景色でさえ私達を楽しませる。


宿の近くの船着き場に着くと、フレッドさんがいなかったので私達は自分たちで船をロープで繋いで桟橋に上がる。


すると桟橋の上に私達と同じくらいの年齢の男女が三人たむろしていて、明らかに好意的でない目で私達を見る。


「見ろよ。田舎者がいるぜ」金髪の男が言った。

「ホントだ田舎者、ねぇねぇそんなイカダみたいな船でこの島まで来たの?」同じく金髪の女が癪に障る声で言う。

「おお原始人、上陸したけりゃ俺らに金払いな」極めつけに鼻ピアスの男がキースの胸倉を掴んで脅す。


やれやれ、私はこの時、この大馬鹿者達を同情の眼差しで見ていた。

キースの切れ長の目はよりいっそう鋭く、今にも鼻ピアスの男を切り裂きそうだ。




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