第59話 これからを話そう(エピローグ前)
結局の所、瑠璃姫が警察のお世話になる事は無かった。
怪我の原因が痴情の縺れの際の、不幸な事故であるし。
監禁については、敦盛の方が彼女だけの罪と考えなかったからだ。
――その事で瑠璃姫がまた敗北感で快楽を覚えたのだが、ともあれ。
「はい、あーん」
「右肩は動かせないけど、左は大丈夫だから普通に食えるからな?」
「そんなコト言わないのあっくん、はいあーん」
「テメェが甲斐甲斐しく世話してくるなんて、まだ違和感バリバリだぞ……」
「つれないわねぇ、折角アタシが理想の幼馴染みをやってあげてるのに」
「本音は?」
「奴隷の様にあっくんに尽くすなんて……なんて敗北感っ、悔しいわ……悔しすぎて興奮しちゃう!」
「やっぱそれかテメェッ! 俺をオナネタにすんじゃねぇよ痴女めッ!!」
差し出されたリンゴを奪い、むしゃむしゃと。
今、敦盛は入院中であった。
良くも悪くも変な風に折れたお陰で、全治半年入院一ヶ月。
「ああもう……、今日は平日だろう。学校はどうした瑠璃姫」
「え、そんなもん停学に決まってるでしょ」
「だったら家に引きこもってろよッ!! わざわざ毎日通うんじゃねぇ、後四週間ずっと通うつもりか!?」
「当たり前じゃない、だってあっくんは命の恩人だし」
「騙されねぇぞ、テメェがそんな殊勝な理由で見舞いに来る筈が無い、絶対に……だッ!」
すると瑠璃姫は大粒の涙を浮かべ、ぷるぷると震え嗚咽が漏れ始める。
途端、同室の者達、そして居合わせた看護師が冷たい視線を敦盛に向け。
(ざっけんな瑠璃姫えええええええええええッ!! 俺を悪者にしたてあげるつもりかッ、甲斐甲斐しく尽くしてるのに邪険にされる可哀想な彼女の地位を手に入れるつもりだなッ!!)
魂胆は分かってる、同情を引いて敦盛と二人っきりになる時間を増やそうとしているのだ。
そしてそんな時間があったのなら、彼女は敦盛を手に入れる為にピンク色なアハンムフンをするつもりだろう。
それだけではない。
(このまま外堀を埋めて、俺の恋人という立ち位置を確率する気だコイツッ!! いや確かにコイツの事は好きだし、今も愛してるけどさぁ……)
あんな事があったばかりだ、流石の敦盛も今はそういう関係になりたいとは思わない。
そして出来るなら、捻曲がった愛情ではなく。
もっと普通な、一般的な愛情でもって好意を寄せて欲しい。
彼は溜息を一つ、左手で彼女の頭を撫でて。
「…………(お前の策略を見抜けなかった)俺が悪かった。(世間体が悪いから)もう泣きやんでくれ」
「しくしく、しくしく、愛が足りないわあっくん」
「具体的には?」
「俺の女だぜって感じで、強引にキスして」
「スマン、ちょっと精神的にそういう行為は暫くしたくねぇんだ」
「マジトーンで断られたっ!? こんな巨乳で美少女な幼馴染みが身も心も捧げようってのに何が不満なのよアンタ!!」
「復讐心を敗北感でオナる為のスパイスにした挙げ句、憎悪を腸捻転して愛情にしてるあたり」
「本音は?」
「昨日、精神科のお医者さんに女性不信になりかけてますねって言われたんだが?」
「あ、これマジなやつっ!? あっくんのケツの穴の皺の数までを知り尽くしてるのに、思い通りにならないなんて何て屈辱!!」
「そうやって興奮する所だぞ?」
二人のトンチキな会話に、同室の者も看護師も微笑ましそうに目を反らし。
否、心なしか敦盛へ同情的な視線があるような。
(まぁ……平和って言ったら平和か。監禁されたの五日ぐらいの筈だったのに、何週間ぶりって気がするぜ)
こうして彼女と心置きなく言い争える日々を、敦盛は望んでいたのだ。
というか、告白したあの後も続けられると信じていた。
「…………結果オーライってやつかな?」
「なに変なコトを言ってるの? もう一度頭をぶつけてみる?」
「殴っても良いか?」
「ごめんねあっくん、いくらアタシでもリョナ趣味までは……」
「自分のやった事を胸に手を当てて思い出せ?」
「あっくんの下のお世話した」
「違うよな、関係なくはないがそれ違うよな?」
「あの日、あっくんに全てを捧げた日。アタシは幸せだったわ」
「間違ってなさそうだけどッ、それ絶対違う意味だよなッ!?」
「あっくんは面倒臭い男ねぇ、ハゲるわよ」
「うっさいわッ、親父も爺さんもハゲてるからどうせ俺もハゲるってんだよッ!!」
けらけらと笑う瑠璃姫に、つられて敦盛も笑って。
でも、いつまでもそうして居られない。
話し合う事がある、真面目な話だ。
(――――ま、そうよね)
彼の空気が変わった事を、瑠璃姫は敏感に察知した。
このまま、こうして表面上は以前の様な関係を続けても良いと思ってはいたが。
一度関係が決裂して、盛大に捻れてしまった以上。 二人が一緒に居るには、話し合うしかなくて。
(もう一度強引にしちゃえば、あっくんとアタシ、どっちかが壊れちゃうものね)
それでも良い、むしろそれが良いという破滅願望を押し込めて。
「話があるんでしょ、どうするのあっくん。場所を変える?」
「流石は瑠璃姫、気づいてたか」
「長年、幼馴染みやってないっての」
「だな、じゃあとりまカーテンだけ」
「はいはい、あっくん様の仰せの通りに」
そして、二人のこれからを決める話し合いが始まった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます