第58話 恋なんてこりごりだ
結局の所、急ぎ救急車が呼ばれ。
敦盛は到着まで保健室に運ばれ手当を受けているのだが、当然の様に皆へ説明は必要な訳で。
「じゃあ代表して担任の僕が聞くけど」
「ああ、何でも聞いてくれ先生」
「何があったの?」
「俺が聞きたいです先生……」
「溝隠さん?」
「先生……アタシは間違ってた、アタシはあっくんの為に、愛の為に存在してるのっ」
「なるほどなるほど……つまり今回も痴情の縺れと」
「それで済まさないでくれません先生ッ!? ――って今回もって?」
「あれ? 知らなかった? ウチの高校ってばかなり前から、それこそ僕が入学する前から色恋沙汰で警察やら救急車が来るコトが多いんだけど」
「ウチの高校、修羅場多くありませんかッ!?」
「だよねぇ、僕も苦労したよ……」
その非常に遠い目に、敦盛のみならずクラスメイト達は全員何かを感じ取って、ああ、と納得の溜息を吐いたが。
「いや英雄? 私達の代からは君が原因、或いは関わった騒動で起こった修羅場が増加してるのを知っているか?」
「うーん、それって君も関わってるよねフィリア?」
「君の恋人、愛妻としてな」
「あくまで主体は僕だと」
「うむ」
「先生? ご夫婦でイチャつくなら後にしてくれません? 瑠璃姫を俺から離して欲しいんですが?」
「ああ、ごめんごめん」
瑠璃姫は今、一時も離れるものかと敦盛に密着し。
手当も他人に任せるものかと、保険の先生を押しのけて。
不幸中の幸いとも言うべきか、彼女の手当は本職と同等がそれ以上な事ではあったが。
「何となくどうなったかは分かるが、お前はそれで良いのか敦盛? まだ死ぬ気はあるのか?」
「そうそれっ! それ俺も聞きたかった!!」
「竜胆、円……ああ、迷惑かけたな。もう死ぬ気はない――――じゃねぇよ、竜胆、テメェ今どうなったか分かるとか言ったか?」
「どうせ瑠璃姫さんが真実の愛に目覚めたとか、そんなんだろ。面倒くさい女は大概、そんな事を言うんだ」
「え、何その実感籠もった台詞ッ!? 割と当たってるだけに怖いんだけどッ!? その法則でいくと奏さんはどうなんだよッ!?」
「あっくん? アンタまだ奏を愛してるとかぬかすワケ? ――――殺すわよ奏を」
「早乙女君、言葉には気をつけなさい。私と瑠璃ちゃんが殺し合った挙げ句、竜胆と貴方を道連れに死ぬ前にね」
「おい竜胆ッ!?」
「諦めろ、お前は瑠璃姫さんを目覚めさせてしまったんだ…………」
「お労しや敦盛ぃ……君には俺みたいな苦労を、火澄ちゃんみたいなクッソ重い相手じゃなくて、普通の幸せを掴んで欲しかったのに!!」
「円? その言い方だとテメェ、こうなる事が分かってたのか?」
「いや? でも溝隠さんとの恋愛はロクな事にならないって確信してた、だからいつも言ってたでしょ?」
「返す言葉が無ぇッ!!」
「そこはちゃんと言い返しなさいよ、あっくんは自分に尽くしてくれて、しかも自分好みに育てた美少女を手に入れたじゃない。しかも身も心も蹂躙し放題よっ」
「竜胆、円、俺が間違ってた。お前等の忠告は聞くべきだったわ。――苦労したんだなテメェらも」
「「敦盛!!」」
ひし、と拳を合わせ友情を確かめ合う三人。
それを見た瑠璃姫は、面白くないと口を尖らせ。
「…………あっくんが入院してる間に、監禁部屋を作り直そうかしら」
「あらダメよ瑠璃ちゃん、そういうのより病室でセックスして籠絡する計画を練らなくては」
「ナイスアイディアね奏っ!!」
「何処がだよッ!? おい竜胆、奏さんを何とかしろッ!!」
「すまん、まだ恋人じゃねーから。俺は何も言えない……」
「だって奏、アンタも頑張んなさいよ」
「そう……竜胆はまだ分かってくれないのね」
「いや瑠璃姫? テメェ何人事みたいに言ってるんだ?」
その言葉に、誰もが敦盛に視線を向けた。
勘の良い脇部夫妻は苦笑し、竜胆や円はあー、と難しい顔。
瑠璃姫や奏、他のクラスメイト達は意図が分からず。
――――そして、爆弾が落とされた。
「何を不思議そうな顔してんだよ、よーく考えてみろ。俺の告白は受け入れてねぇってテメェが言ったんだろ。んでもってさっき告白してきたが……俺は付き合うとも結婚するともペットにするとも言ってないよな?」
「…………あっくん? つまり?」
「俺とお前は、まだ只の幼馴染み。いやテメェの事は好きだし愛してるけどな? こんな事があって恋人になりたいとか、それ以上になりたいとか言うと思ったか? セフレも断るぜ?」
「……」
「……」
「……」
「……あ、ジョークねあっくんっ!」
「いや真面目に。逆に聞くが、こんな事があってどうしてそのまま恋人関係だとか、主人とペットとかいうアンモラルな関係とか、ラブラブ夫婦になれるって思ったんだ?」
瞬間、保健室が凍り付いた。
然もあらん、あまりにも当然の理屈、理由、同意しかない言葉。
普通の感性を、度量をしていれば縁切りしていたって不思議ではない。
「という訳でだな、俺は当面……色恋沙汰はいいかなぁ……、もうお腹いっぱいだぜ」
「おい敦盛?」「いや敦盛?」
「そうだっ、怪我治ったら三人で遊びに行こうぜ! な、竜胆! 円! 男三人で旅行とか行かねぇ?」
温泉、それとも遠くのゲーセンへ日帰り、某ねずみの国か、と楽しそうにする敦盛。
一方、瑠璃姫は愕然とした顔であんぐり口を開け。
「…………ドンマイ瑠璃姫さん」
「あー、溝隠さん。敦盛の負担にならないぐらいに頑張って、何かあったら火澄ちゃんに相談してよ連絡先渡すから」
「残念だけど、自業自得とししか言えないわね。愚痴ぐらいは聞くから頑張ってね?」
ぷるぷる震える瑠璃姫を、敦盛以外の全員が複雑そうな視線を向ける。
当然といえば当然の結末、当面の間は恋愛したくないという彼の気持ちは痛いほど理解したからだ。
「……………………ねぇ、あっくん」
「おう、なんだ瑠璃姫。そろそろ痛みで気絶しそうだから手短にな」
「分かったわ、アンタは天井の染みを数えてるだけでいいから」
「は?」
「アンタがパパになるのよっ、今この場でパパにしてやるうううううううううっ、アタシを孕まして子宮に敗北刻んでイチャラブ奴隷嫁にしなさいよバカ盛イイイイイイイイイ!!」
「うぎゃああああ、誰か助けろおおおおおおッ!!」
半泣きで襲いかかる瑠璃姫に、ベッドから落ちそうな敦盛。
救急車が来るまで、保健室は混迷を極めたのであった。
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