第27話 スケスケ眼鏡
敦盛の知らない所で恋愛事情が動こうと、時は平等にながれ週末。
竜胆と奏が妙な牽制合戦をしていたのは気になるが、相変わらず瑠璃姫の唇を意識してしまう彼には深く考える余裕などなくて。
「出来たわよあっくん!! 題して、スケスケ眼鏡!! これを掛ければ奏の下着が服の上から見えるわよっ!!」
「なんつー危険なモン作ってんだテメェ!! というかだッ!! 今の俺にはテメーに構ってる余裕ねぇんだよ!!」
「え、折角の日曜だし暇してるでしょ、あっくん。今だってソファーでぼーっとしてるだけじゃない」
「色々考える事があんだよッ!!」
「奏への好意が憧れだったとか? それともアタシとのキス? 奏のおっぱい揉みたかった? ペットの枠を越えてアタシを恋愛関係になりたい?」
「んもおおおおおおおおおおおおおッ!! 全部分かてるならそっとしておいてくれよォ!!」
こんなに心がぐちゃぐちゃな状態で、どうして彼女の対応ができようか。
ぷいとそっぽを向いた敦盛に、瑠璃姫は躊躇無く抱きつく。
自慢の大きなおっぱいを押しつけて、猫なで声を出す。
「ね、ね、構ってよあっくん~~。いつも喜んで実験台になるフリして壊すとかさぁ、ちょっとは期待してたのよ?」
「いや壊されるモンを作った自覚があるなら、そのまま壊してどうぞ?」
「これを見て、アタシを見てみたくない? 今……下着履いてないのっ」
「とっととブラとパンツ付けろ」
「むぅ……これは手強いわね」
重傷だ、とてつもなく重傷である。
普段の敦盛なら、一にもなく飛びつきなんだかんだとスケスケ眼鏡を堪能して壊すのに。
こんな色仕掛けしたら、警戒しつつ喜んで更にその上を目指して反撃するものだが。
(………………うーん、ちょっと突っつき過ぎたわねぇ)
彼女が計画としては上々、奏に傾いていた天秤が逆に傾いていると感じているのだが。
(惑わされるな俺ッ、誰がなんと言おうと奏さんへの想いは憧れなんかじゃ無い!)
そう、これは瑠璃姫の策略だ。
奏への想いを断ち切らせる為の、陰謀。
(負けるものかッ、この愛を俺は貫いて――――ん?)
奏への愛を貫く、それは何を意味しているのだろうか。
奏への愛を貫く、それを何故彼女は邪魔しようとしているのか。
そして己は、瑠璃姫のそういった行動が不快ではなくて。
(…………………………もしかして)
もしかすると。
(瑠璃姫は……、俺の事……好き? え? マジ? そういう事なのかッ!?)
あくまでペットだの、恋仲になるのは禁止だの、奏との仲は応援するなど口では言って。
実際の彼女の行動はどうだ?
(なんでキスした事を皆にバラした? というか何でキスした? あっちからキスしてきたんだよな)
そもそも。
(親父の借金の原因の裏側にアイツが居たと仮定して、そこに何の利益が? ――俺を独占したかった?)
もし借金の原因が手紙通り自業自得だったとして、一億という大金だ。
(幼馴染みといえ、金持ってるとはいえ、流石に見捨てるよな? うん、普通は見捨てる。普通全部肩代わりして一本化して、ペットとして今まで通り世話してれば月に百万とか、ありえないよな?)
となれば。
(え? マジでコイツ……俺の事が好きなの? もう愛してるって次元じゃないのコレッ!?)
途端、顔が赤くなる感覚。
胸がムズムズして、口元が笑ってしまいそうな。
「――――嬉しいのか、俺?」
「何が嬉しいの?」
「うわッ!? まだ居たのかテメェッ!?」
「まだ居たのって、さっきからずっと同じ体勢でくっついてるじゃない。アンタがぼーっとしてただけでしょっ」
「あ、ああスマン」
「妙に素直に謝ったわね……」
「まぁ取りあえず離れろ、話はそれからだ」
そうして瑠璃姫は背中から離れ、彼の正面に移動しようとして。
「……いや、隣に居ろよ」
「………………何か悪い物でも食べた? いや良いけど」
彼女は素直に隣に座る、ピタッ、と隣に座り直してみるも彼は少し頬を赤くするだけで無言。
これには瑠璃姫も彼の変化を感じ取って。
(やっぱ隣に座ったッ!! これは確定ッ!! 俺はッ! 俺はこんな分かりやすいフラグを見落としていたと言うのかッ!!)
(わっかり易いわねコイツ……大方、アタシが惚れてるとか勘違いしてるんでしょうけど。――うぷぷぷぷっ!!)
(この雰囲気、悪くねぇよな……もしかしてイケるのか? 手とか握っちゃたり? それ以上も!?)
(ま、ここは限界まで焦らすの一択ね! アタシに弄ばれなさいあっくん!!)
敦盛は手を開いたり握ったり、瑠璃姫がそれをニマニマと眺めている事に気づかぬまま。
「…………手、握るぞ」
「どうぞどうぞ」
「……………………すべすべしてるなお前の手」
「あら、ありがと」
「暫くこのまま――「これ以上はアンタが奏をどう想ってるかね」
「ん?」
「聞こえなかった? アンタがだーい好きな奏の事はどうするって聞いてるのよ。アタシの手を握って次はどうする心算だったの? まさか、奏が好きなままアタシを抱こうと考えてた? 借金の事も忘れて?」
「んんんんんんんんッ!?」
悪辣な笑みで問いかける瑠璃姫に、敦盛は冷や汗を流すしかなかった。
見抜かれている、下心も奏の事を忘れていた事を。
(やっべぇええええええええ!! 忘れてたあああああああああああああああああッ! …………いや、忘れてたって事は実はその程度って? いやそうじゃねぇだろ俺ッ!! いやでもッ、瑠璃姫は俺の事が好きで、俺は奏さんも瑠璃姫の事も好きでッ!!)
(あらあら迷ちゃって……、おかしいったらありゃしない。ホント、あっくんはピエロよねぇっ!!)
(落ち着けェ、落ち着いて考えろッ!! 俺は瑠璃姫の事が好きで、奏さんの事も好き――ってループしてるだろうがッ!! …………はっ! いっその事、コイツとセックスすれば分かるのでは??)
戦国時代や明治時代ぐらいまで遡れば、日本だって正妻や妾の概念があった、一応。
だが今は現代だ、恋人は一人、結婚相手も一人、法律でも一夫多妻制は認められていない。
そして今時、体だけの関係とか、体を繋いで気づく恋とか良くある話である。
ならば。
(このままでもワンチャン、最悪全裸土下座で頼めばセックス! 初体験!! それでコイツの事が好きだって分かれば丸く収まる訳だし!)
(なーんて理論武装してるの丸わかり、ホントあっくんはおバカ可愛いでちゅねぇ~~!)
(セックス! セーックス! おせっせ!! 初体験!! 相手はアルビノ美少女の処女で幼馴染み! 最高級の相手!! ――もしやこれは運命では?)
(――――でもねあっくん、答えなんて出させない)
敦盛が鼻息荒く、瑠璃姫の肩を抱こうとした瞬間であった。
ぴんぽーん、と来客が。
彼が思わず硬直した瞬間、彼女はすかさず立ち上がった。
「お、おい。今はほっておけよ……」
「バーカ、そうはいかないのよ。なんたって――――アンタの為に奏を呼んであげてるんだからっ!」
「………………はぁッ!?」
「じゃ、そういう事だからお茶の用意でもしてなさい」
「る、瑠璃姫ッ!? 瑠璃姫さんッ!? ご主人様ッ!? ……………………マジ、かッ!!」
何のために奏を呼んだのか、悶々としながら敦盛は歓迎の用意の為に立ち上がったのであった。
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