第6話 仁義無きチャンバラ
(ぬおおおおおおおおおおッ、超絶ぬかったァアアアアアアアアアアアアアア!! これかッ! これが目的だったのかコイツッ!?)
敦盛は激しく後悔した、月収百万の各種手当てマシマシの美味しい仕事。
実の所、小指の先ぐらいは期待していた。
何せ溝隠瑠璃姫という女の子は、神秘的な巨乳美少女の外観の持ち主。
そんな彼女のペットとくれば、好きな人が居るとはいえ色々と期待してしまう。
(一億の借金ッ、百万円はもう受け取ってしまったッ、退路が無ェッ!!)
「ほらほらぁ、どうしたのあっくん? あっくんはアタシのペットになったんでしょ? ご主人様が可愛がってあげるわよ、それにお望みのエッチなシチュエーションよ喜びなさい?」
「喜べるかドアホッ!? いやああああああ、そんなもの近づけないでェエエエエエエエエエエ!?」
「ほれほ~~れ、アンタに逃げ場はもう無いのよっ、一生アタシの世話しながら実験台として弄ばれなさいっ!!」
「こ、断「トイチ」卑怯者めッ!!」
瑠璃姫は天才だ、どんな用途でどんな機能の物も高性能で仕上げる。
――偶に失敗して爆発するが。
ともあれ、今回はそこまで複雑な構造をしていないと素人の敦盛でも判断できる。
故に。
「童貞を卒業する前に、処女を喪うのか俺はッ!?」
「これまでアタシにセクハラ三昧してきたツケを払う時が来たのよ、――大人しくしてれば天国に連れて行ってあげる」
「ぬおおおおおおおおおおおッ! お、俺はどうすれば良いんだッ!!」
「観念するのねあっくんっ!! 今日こそがアタシが勝利者となる時っ!!」
(何か…………何かないのか起死回生の手はッ! 駄目だ駄目だ駄目だッ、俺には守るべきケツの穴があるんだアアアアアアアアアアアアアアアアッ!! )
その時であった、追い込まれた敦盛の脳裏にスーツ姿の男性が浮かぶ。
(せ、先生ッ! 俺の心の中の脇部先生ッ!!)
(いやぁ君も追いつめられてるねぇ敦盛君、先生、何だか懐かしくなってくるなぁ)
(ヤバッ、俺の妄想の筈なのに妙にリアルッ!?)
(それだけピンチだって事さ、今の僕は敦盛君の走馬燈みたいなモノだから)
(走馬燈でも何でも良いから解決策を教えてくれ先生ッ! 先生なら知ってる筈だッ!!)
(仕方ないなぁ敦盛君は、前にも言っただろう? もし恋人にお尻の穴を狙われた時、その解決法は一つだけだって)
虚像の担任教師と敦盛の心が重なる。
((掘られる前に反撃して降参させろ!!))
この間、おそよ一秒である。
次の瞬間、敦盛は俊敏に動いて食卓に置きっぱなしであった父の電マを回収。
それを剣の様に両手で握りしめ、瑠璃姫に対峙。
「――――覚悟しろよご主人様よォ」
「へぇ、減額されてトイチでも良いんだぁ」
「馬鹿言うなよ、俺がペットだぜ? ……飼いたてのペットと言えばご主人様に噛みつくのが仕事だろうが」
「ふぅ~~ん? つまり勝負をしろって? 勝ったらケツの穴は狙わないと誓えって?」
「そうだ、それだけで許してやるよ」
「随分と生意気なペットね、――でも立場は依然としてアタシが上、どうしてその勝負に乗らないといけないわけ?」
「ははッ、また負けるのが怖いのか? 勉強以外で俺に勝てた試しが無いもんな、せっかくペットにしたのに負けるなんて無様だもんなァ」
「――――吠えたわね、あっくん?」
刹那、瑠璃姫の纏う空気が変わった。
形の良い眉をつり上げ、赤い目を爛々と輝かせ百年の恋も冷めるような鬼の形相。
同時に、彼女の持つ魔改造電マが唸りを上げバチバチ火花を散らし。
「「いざ尋常に――――、勝負!!」」
炬燵を中心に、両者はゆっくりと周りながら対峙する。
(身体能力は俺が上だ、だがコイツの計算能力は未来予知の領域)
(――あっくんは距離を詰めて突き、アタシはそれを左手でガード。いえ、駄目よ後ろに下がるべきだわ)
(多分、普通にチャンバラしてたら勝てない。なら俺の電マを捨ててアイツのを奪う……のも読んでるなきっと、だから――――)
(三手目であっくんは電マを態と落として気を引いてアタシのを奪う、同時にスカートめくりで不意打ち、だから金玉を蹴るっ!)
やがて二人は制止し、同時に炬燵と食卓の何もないスペースへ飛び出す。
「っしゃオラァアアアアアアアアアアア!!」
「電マを投げるパターンも読んで――っ!? っ、きゃあっ!? ぬおおおおおおおおおおおおおっ!? なんでおっぱいと股間を手で直接狙ってくるのアンタはっ!?」
「テメェ相手にまともに戦ってられるかッ!! 電流がどうした震動がどうしたケツの穴もくれてやるッ!! だがその前におっぱい揉むしこのゴットフィンガーでで潮噴かせてやらぁああああああああああああああ!! AVで見よう見まねで覚えた手つきを味わうがいいッ!!」
「ヘンタイヘンタイヘンタイっ!! あの子にチクるからねっ! こっちに来ないでよバカバカバカぁっ!!」
「ひゃっはああああああああああああ、どーせ破滅するなら今日がお前の素人AV撮影日じゃあああああああああいっ!!」
尋常に勝負とはいったい何だったのか、敦盛は執拗に瑠璃姫の服を掴もうと追いかける。
彼女としては逃げるしかない、だが――身体能力としては敦盛の上。
その上、貞操を狙われて冷静に対処出来なくなった瑠璃姫は思わず。
「こっちに来ないでってばっ、これでもくらいなさいっ!!」
「はいキャーッチっ!! そして俺のも回収ッ!! これでダブル電マだァ!!」
「しまったっ!? ひ、ひいいいいいぃ!! 来ないでぇっ!?」
「カカカッ、もう逃げ場は無いぞ…………!! いや誘ってるのか? そこの後ろは俺のベッドだぜ?」
「ふぇっ!? しまっ――――躊躇無く押し倒すなっ!?」
「ふふふッ、自分で発明したエロアイテムで快楽落ちするがいい……」
「や、やめーーーーーっ!? 洒落になってないからぁっ!? 待てっ、スカート延びちゃうパンツを脱がそうとしないでええええええええええ!? 一時休戦っ! 一時休戦しましょうっ! そうっ、月収百十万! だからチャラ! チャラにしましょう!!」
「…………ほーう? 処女とお別れする挨拶はそれで良いのか?」
にたにたと下卑た笑顔をする敦盛に、瑠璃姫は涙目で告げる。
「アンタ、マジでそのまま犯したら警察に映像持って駆け込むから」
「………………あー、キャメラ、何処かに、アルゥですネー?」
「動揺したわね? ブラフだと思うなら犯しなさい、父さんにも自動転送するように処理してあるから」
「………………………………マジ?」
「逆に聞くけど、嘘だと思う? アタシが何の保険も無しにアンタをペットにすると思う? この天才であるアタシが?」
「う、うーん?」
敦盛の額に冷や汗が大量に流れる。
(コイツはともかく、恩ある小父さんを悲しませるとか出来ねぇッ!! コイツはともかくッ、コイツが堕落の末に俺に唆されてエロライブチャットで稼ぐようになるなら兎も角、小父さんに娘を犯す姿をお届けとかどんな鬼畜の所行だよ俺罪悪感で生きていけないってーーの!!)
ごくりと唾を飲み込み、彼は彼女のスカートを掴む手をゆるゆると離して。
そろりそろりと距離を取った。
ゴトリと電マを床に置き、――――土下座。
「あー、その……、どうか俺の童貞を貰ってください?」
「まだセックス諦めてないのアンタっ!? その根性だけは認めてやるわよ精子脳っ!!」
「へへっ、照れるな」
「誉めてないっ!!」
「ところでご主人様? そろそろ晩飯でも作ろうと思うんだけど何が良い? カレーとカレーとカレーのどれだ?」
「カレーしか無いじゃないのっ! スープカレーにしなさいっ!」
「あいよ、ところで…………マイスイートハニーには」
「蒸し返すと言うわよ、というかあの子のことハニーとか言うの止めなさい、勘違いキモ男過ぎて警察に通報したくなるわ」
「今すぐメシ作る! 俺は瑠璃姫の忠実なペットだからなっ!」
敦盛のペット生活初日は、ぐだぐだのまま終わったのであった。
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