第3話 溝隠瑠璃姫
――溝隠瑠璃姫。
それは、早乙女敦盛の幼馴染みである。
隣の部屋に住み、家庭環境も同じ様なものだ。
そう、彼女もまた幼い頃に母親を亡くし。
(それ以来だっけか、コイツが引きこもりになったのは)
「どうしのあっくん? アタシの美しい美貌に見とれちゃった?」
「黙れ隠れ肥満、お腹のぷにぷにを無くしてからもう一度言え」
「へーえぇ、そんなコト言って良いんだぁ……、土下座して謝るなら今の内よ!」
まるで自分こそがこの部屋の主だと言わんばかりに、ソファーでふんぞり返る美少女。
確かに彼女は美しい、銀髪に見える白髪、神秘的とも捉えられる赤眼。
整った顔立ちは、彼女が普段から愛用しているゴス衣装とよく似合っており。
「ふッ……、まぁお前がそんな事を俺に言うのも。それこそ今のウチだな、精々楽しんでおけよ」
「――――ううーん、アンタ今日はヘンね。というかいい加減さ服着たら?」
「言われなくても、この俺の肉体美はお前には勿体ないからな」
「もっと鍛えて腹筋が六つに割れてから言って頂戴な」
「はいはい、オジさんには俺より優しく接してやれよな」
「……………………アンタ、マジでどうしたの? 悪い物でも食べた? 熱でもあるの?」
ぎょっと目を見開き、怪物を見る表情の彼女に敦盛はため息。
彼女にはあまり言いたくなかったが、この際である説明しなければならない。
(コイツのお守りも今日限りか、……少しは寂しくなる…………なるか?)
腐れ縁とはいえこの顔と、認めたくはないが魅力的な巨乳が見納めなのは残念だ。
一方で彼女のお守りがこれまでどれだけ手間だったか思い出してしまい、敦盛は顔をしかめる。
「あのな瑠璃姫、これからはもう面倒は見れない。だから今日からはしっかり生きていけ、――俺が居なくても、だ。」
「そう、それで?」
「…………え、何だそのニヤツいた顔。きもいぞ」
「その言葉、後で後悔しないと良いわね」
「は? いや良いか。お前は天才なんだからさ、これからはまともに学校に通って、ちゃんと大学行って、就職してオジさんに迷惑かけない生き方をしろよ」
「で?」
「で? いや分かれよッ! 俺は今から身を隠すッ、だからテメーの世話は自分でやれって事だよッ!!」
「大変ねぇアンタ、小父さんの借金一億五千万、それも全部ガチャで国中どころか海外の闇金にまで借りて」
「分かってんなら――――おい待て、何で知ってるッ!? というか額が増えてるじゃねーか、しかも海外の闇金!? なんで知ってるんだテメェッ!!」
「ちょっ!? そんな勢いで揺らさないでっ!? 脳細胞が死んじゃうっ!? 天才の脳細胞が死ぬとか世界の損失よっ!?」
血走った目で、敦盛は彼女の華奢な肩を揺さぶった。
瑠璃姫からしてみれば頭は激しく揺れるし、全裸なのでぶらぶらする股間は見えるし最悪である。
「おいテメェ……、何か知ってるだろ、絶対に何か知ってるだろッ!!」
「手を離しなさいってばっ! 話すから離しなさいよ、痕が残ったらどうしてくれるのよお嫁にいけないじゃないっ!」
「はん、テメェが嫁になんていけるかよ社会不適合者、精々、エロライブチャットで小銭を稼ぎながら惨めに死んでいけ」
「エロライブチャット何処から出てきたのよっ!?」
「いや、俺が将来計画してた事だが? だってこのままだとババアになるまで引きこもりだろお前、だから三十になる前に老後の資金を稼がせようと、な?」
「サイコパスっ!? アンタ絶対サイコパスよっ!? こんな可愛くて美人な幼馴染みのお世話してるのに、どうしてそんな発想が出てくるのよっ!? つーかアンタ、アタシの頭脳を何だと思ってるワケっ!? 日本やアメリカだけじゃなく世界中の研究機関から引く手数多の天才を何だと思ってるのっ!?」
「自意識過剰で性格バカな面倒くさい女」
「もっとアタシを敬いなさいよぉっ!?」
「そういう所だぜ?」
ぐちぐり文句を言う瑠璃姫に、敦盛は盛大なため息を吐き出した。
そう、彼女は天才だ。
引きこもっているのも、別に母を亡くした所為ではない、勿論アルビノの美貌をからかわれて幼心が傷ついた……訳でもない。
『はぁ? なんでアタシが三歳で理解した事をわざわざ出かけて学ばなきゃいけないの? バカじゃないの? あ、あっくんはアタシと違ってバカだったわねメンゴメンゴ』
と小学校高学年になる頃には登校を拒否、中学も同じく高校二年の今に至るまでテストの時しか登校していないのだ。
そして、引きこもって何をしているかと思えば。
『あっくん! 今日は好感度を計る眼鏡を開発したわ! 試してきな――――あ、ごめん三秒後の爆発するわ』
『今すぐステーキが食べたいわ、買ってきて作ってよあっくん』
『今すぐパンツを脱げ? ヘンタイになったのあっくん? え、違う……一週間同じパンツ履くな? ええぇ……一々洗う方が非効率的じゃない? そうそう病気にならないってデータで出てるんだから』
等々。
変な発明をしては、敦盛を巻き込み。
食事の世話も敦盛任せ。
更には洗濯や掃除、はたまた学校からの各種通達も敦盛を介してだ。
(しかも勝てない癖に勝負を挑んでくるんだよなコイツ、勉強以外の全てがダメダメだってのに…………うん?)
そして彼は気づいた、確かに彼女はアホだ。
幼馴染みで美少女で巨乳で柔らかで良い匂いがするが、世界有数と幼い頃は騒がれていた天才ではあるが――アホだ。
その彼女が、父の借金の事を敦盛以上に知っている。
「………………おい、お前まさか親父を唆したりしてないよな?」
「唆す? 変な事を言わないで、アタシがしたのはアンタのお母さんに似たキャラが出てるソシャゲを紹介しただけよ、ついでに闇金のリストもね」
「うーんこの、今すぐぶち犯すぞこのアマ。今日がテメェのハメ撮りAVデビューの日だぞ?」
「あらそう? 小父さんの借金を肩代わりして払った領収書と、お給料を働く前に出してくれる好条件の就職先を持ってきたんだけど…………、全部ナシにして良いわよね? サービスで借金一本化して『ヤ』の付く自由業の人達にアンタ名義で渡そうと思うんだけど」
「何が望みだ瑠璃姫、姫って柄じゃ全然無いのに名前にナチュラルに姫が付く瑠璃姫さんよ。肩を揉むぞ? 足を舐めるか? それとも望むなら今からお前の前でオナニーするが?」
見事な全裸土下座だった、白旗降伏であった。
そんな敦盛を彼女は満足そうに見下ろして。
「よろしい、では今から面接を始めようと思いますっ! 月収百万前渡し昇級アリ家賃手当保険手当アリ食事手当アリのラッキーな求人は先着一名のみよっ!」
「よし乗ったァッ!!」
完全に踊らされいる、だが乗るしかないこのビックウェーブに。
敦盛は全裸で万歳三唱した。
「その前に着替えなさいよ見苦しい」
「おっとそうだった」
ともあれ、彼女の言う面接とやらが始まったのであった。
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