恋愛禁止ペットとして飼われる事になったけど、それは俺と恋人になる為の罠だった

和鳳ハジメ

第1話 借金一億円!



『ごめん、一緒には暮らせない


 いま、北国のオカマバーに居ます。


 このオカマバーのボーイとして、父はお金を稼いでいます。


 本当はケツの穴が怖いけれど……。


 でも、今はもう少しだけ知らないふりをします。


 俺の稼ぐお金で、きっといつか、借金を返せるから……。


 追伸。

 ガチャ爆死して、借金一億円つくっちゃったテヘペロ。

 今年の学費は先納済みだから問題ないが、家賃と生活費は自分で稼いでくれ。

 そうそう、怖い黒服のお兄さん達がやってきたら土下座して帰って貰ってくれ。』


「……………………――――――は?」


 帰宅したばかりの学生、早乙女敦盛(さおとめあつもり)は思わず硬直した。

 青天の霹靂とは正しくこの事。

 季節は春で新学期初日、二年への進級、一年の時と同じ顔ぶれのクラスメイト。

 新生活を言うには少々大袈裟だが、ホームルームのみの午前授業でウキウキと帰宅したその瞬間で。


「え、ええっ!? は? マジ? マジなのかよクソ親父いいいいいいいいいいいいい!!」


 リビングの上の置き手紙、そこには堂々たる失踪宣言。

 いや、行き先を書いてあるだけマシなのだろうが。


「ちゃらんぽらんだと常々思ってたけどさぁッ!! 一応男手ひとつで育てて貰った恩もあるから飲み込んでたけどさああああああああああああ!! いい加減、死んだ母ちゃんに似てるキャラへ無秩序に貢ぐのヤメロって言っただろうがッ!!」


 それだけ妻への愛は深かった、そう言えば心なしか綺麗に聞こえるが。

 息子として言えば、ただのバカである。


「くぅ~~~~、ごめんよ母ちゃん。ごめんよぉ……、あんなに親父に好き勝手させちゃいけないって頼まれたのに…………――――俺、は、無力、だ……」


 彼は、ふらふらとした足取りで部屋の隅に。

 そこにある仏壇の遺影の前で、がっくしと膝を着く。

 もし彼が美少年であったら絵になったであろうが、生憎と自称フツ面の中肉中背の凡骨高校生。

 誰かが見ていたら同情を引けるかもしれないが、同情するなら金をくれである。


(帰ってきたら一発ぶん殴ってやるッ!! 絶対にだッ!! 許さねぇぞ親父ッ!!)


 メラメラと闘志を瞳に浮かべ、しかして頭の冷静な部分が告げた。

 かの手紙には、とても不穏な事が書いていなかったかと。


(………………おい待て、家賃を稼げとか書いてたよな)


 慌てて手紙を見返すと、やはり見間違いではない。

 正直、何かの間違いであって欲しかったが。


「マジかよ……、俺バイトもしてねぇぞ…………」


 顔から、ゾゾゾ、と血の気が引く音が聞こえる、妙な寒気と共に冷や汗が止まらない。


「――――――確かこの部屋の家賃、十万ぐらいしたよな」


 田舎と言えば田舎だが、都心の田舎でマンションだ家賃は推して知るべし。

 本来ならば、二人暮らしには不必要な広さだがこの部屋は亡き母の思い出がある。

 それは、父も同じ故に少し無理してでも維持していて。


(俺の生活費を切り詰めて……、売れる物は売って金に換えて………………当座だけでも凌げるのか?)


 最悪、家賃は待って貰うとしても。

 最悪、借金を新たに積み重ねるとしても。

 そもそも、その前に。


「生活保護、いや児童相談所か? いやでもそれだと親父がネグレクトとかそんな感じので……犯罪者?」


 考えれば考える程、暗い未来が見える。

 親父が恥さらしとして世間に知られるのは、まだ許容できる。

 だが、だが、だが、それは草葉の陰で母が泣いてしまう案件ではなかろうか。

 そしてその前に。


「いったいどうやって一般人がガチャで借金一億もどっから借りたんだよっ!?」


 闇金か横領か強盗か、それとも敦盛の知らぬ内に株取引でも手を出していたか?


「ま、待て冷静になれよ俺……、ええっと手紙には……黒服のお兄さんが………………、黒服のお兄さんが?」


 クエスチョン、借りた金の先は?

 アンサー、闇金融。

 そう、この書き方だと十中八九闇金融である。

 そして、闇金融といえばその大元は『ヤ』のつく御職業の方々。


「ぬおおおおおおおおおおおおおおおおおッ!? 詰んでるッ!? 俺ッ! 詰んでるんじゃねぇのッ!?」


 これはまさか、敦盛自身も逃亡する案件ではなかろうか。

 父の作った借金を、かの人種が。

 息子への請求をしない、道徳的で法律的な清廉潔白の行いを選択するであろうか?


「――――よし、俺も逃げる。取りあえず児童相談所へ行こう」


 即断即決であった、母の遺志、父への情、思うところは多くあったが命と尊厳あっての人生である。


「スマホと充電器、財布と通帳ヨシ。……母ちゃんの遺影も持って――――」


 その瞬間であった。

 ぴんぽーん、と警戒に来客を知らせる電子音。

 敦盛は、ピシリ、と固まって、ギギギ、と首を玄関の方向へ向ける。


(おろろろおおおおおおおおおおおおおんッ!? ちょっとお仕事熱心じゃねぇかよおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおッ!?)


 借金取りだ、そう直感し頭を抱えたのであった。


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