井戸を見下ろす 幼子

田中 幸樹

第1話 井戸を見下ろす 幼子

  幼い子供が、瓦礫の隙間を抜けると井戸の壁の割れ目だった。




 下を見ると、井戸の底の水面がある。




 その水面は、光輝いていた。




 水面を跳ねる魚でもいるようだ、たまにチャポンと跳ねた音と光が水面から上がる。




 幼子にはわかった、それは魚では無い、命だ 魂だと




 水面下には、沢山の魂が光輝き 水面を輝かせているのだと






  井戸の割れ目から、瓦礫を抜けいつもの寝床に戻る




 小さな 冷たい 動かない 幼子よりも更に小さな幼子が眠っている 目覚めない眠りを




 寝床にあった、紐を持ち幼子は瓦礫の隙間に走る。




 隙間を抜け、井戸の割れ目から紐を垂らす。




 一つの輝きが紐に飛びついた。




 引き上げると、光の塊が躍動している、それを服の隙間に押し込むと幼子は来た道を戻りだした。






 寝床に戻ると、光輝く塊を目覚めない小さな幼子の胸に押しつけ 力の限り押し込んだ。




 小さな幼子の胸に光の塊は吸い込まれ、そして小さな幼子の体が光りだす。






  「おにたん」




 小さな幼子は、大きな丸い目を開け言葉を発した。




 幼子は、泣きながら小さな幼子を抱いた。




  「おにたん」








  一人の奇跡の幼子がいた。




 死した人の元に光輝く命を持ってきて、黄泉がえりを行う幼子。




 蘇った人達は、奇跡の幼子に感謝し奇跡の幼子を愛する以外 生前どうりだった いや 少し変わったようだが 人達は気にせず奇跡の幼子に感謝した。






 愛する人が死んで蘇る




 例え少々行動が変わっても 




 中身がもしかしたら違う者だったとしても




 愛した人の体が動いて 笑い 話すなら






 幸せなのかもしれない


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井戸を見下ろす 幼子 田中 幸樹 @takoyaki1226

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