川口直人 47

 2人の恋人関係は順調だった。


 最初のデートは鈴音の希望通りディズニーランドへ行って、ホテルにも泊まった。

車をレンタルして高尾山にも当然行った。

温泉が好きな俺と鈴音は休みを合わせて、2人で箱根の温泉旅館に泊まりに行った事もあった。そして旅行に行けないときは入浴剤を入れたお風呂に一緒に入って温泉気分を味わった。

毎日必ず電話で話をしたし、週に2回は2人で一晩一緒に過ごした。そのほとんどが俺の部屋だったけれども、時には鈴音の部屋だった事もある。


 身体の関係もそうだった。以前までの鈴音は恥ずかしがっていた部分があったけれども今ではすんなり俺を受け入れてくれるようになってくれていた。それが何より嬉しかった。身体を重ねる度に2人の絆が深まっていくようで…もう俺は鈴音のいない生活は考えられなくなっていた。


全てが順調にいっていた…はずだった―。


****


 11月のある日の事―。


鈴音が実家に今日は泊まる事になっていたので俺は久しぶりに友人たちと居酒屋に来ていた。


「おい、川口。お前最近付き合い悪かったじゃないか」


林がビールを飲みながら絡んできた。


「あ~…悪い。ちょっと色々あってさ」


ハイボールを飲みながら返事をした。


「そうか?分った!女だなっ?!お前、女が出来ただろうっ?!」


工藤が唐揚げを食べながら言った。


「あ、ああ…実はそうなんだ…」


少し照れくさそうに言うと林が言った。


「おい、誰なんだよ?まさかすみれじゃないよな?」


「冗談じゃないっ!そんなはずあるかっ!」


尤も今でも月に4~5回連絡が届くことがあるが、全て無視している。


「一体、相手はどんな女なんだよ?」


工藤が尋ねて来る。


「以前、俺が話した事覚えているか?酷い交通事故に遭った人物がいたって…」


「ああ、そう言えばそんな話したな。確かお前の一方的な片思いだって…え?!ま、まさか…?」


林が俺を指さした。


「あ、ああ…お陰様で恋人同士になれたんだ」


少し照れくさそうに言った。すると…。


「おい!川口っ!」


急に工藤が俺の襟首を掴んできた。


「うわっ!な、何だよっ?!」


「彼女の写真…持ってるんだろう?見せろよっ!」


「そうだそうだっ!お前ほどの男が落とすのに苦労したってどんな女なんだよっ!」


工藤と林が交互に迫って来る。


「わ、分ったよ…写真見せればいいんだろう…?」


俺は渋々スマホを取り出すと鈴音の映っている写真をタップした。


ごめん…鈴音…。


心の中で鈴音に謝罪しながら…。


「ほら。これが彼女さ」


2人の前にディズニーランドへ行った時の写真を見せた。それはシンデレラ城の花壇の前で鈴音を撮影したものだった。


「えっ?!こ、これが彼女かっ?!」

「まじかよっ!すっげー美人じゃないかっ!!」


林と工藤が口々に言う。

友人2人から見ても鈴音はやっぱり美人なんだろう。


「お、おい。本当に一般人なのか?」

「そうだ!本当はモデルとかなんじゃないか?」


2人とも興奮気味に言うが俺は首を振った。


「いいや、正真正銘の一般人だ。旅行代理店で働いている」


「マジかよ。く~っ!羨ましいなぁ~!ずるいぞっ!お前ばかりっ!」


林が心底悔しそうに言う。


「馬鹿な事言うなよ。恋人になって貰う為にどれだけ俺が苦労したと思ってるんだ?でも俺は今最高に幸せだよ。何と言っても性格もすごくいいんだ。優しいし、家事も得意だし…」


いつの間にかのろけ話になっており、しまいには2人に呆れられる有様だった。


この時の俺は本当に幸せだった。


だから気付かなかった。


父の会社が…大変な目に遭っていたなんて―。



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