川口直人 48
11月某日―
今夜も俺は恋人の鈴音と電話で話をしていた。鈴音との会話はいつも時を忘れてしまう。話をしながら何気なく部屋の時計を見れば時刻は23時半になろうとしていた。
「あ、もうこんな時間だ。明日は早番だろう?そろそろ寝た方がいいんじゃないか?」
『あ、本当だ。そうだね…そろそろ寝た方がいいかも。直人さんだって明日もお仕事だものね。もう少し声を聞いていたかったけど…』
鈴音が寂しそうに言う。最近の鈴音は好意を素直に現してくれる。それが嬉しくてたまらなかった。
「俺もだよ、鈴音」
『あ、あのね…。明日は早番だから…少しでも会えるといいな…』
「勿論だよ。鈴音は明日は19時には帰ってこれるんだよね?」
『うん、そうだよ』
「俺は20時には帰って来れると思う。部屋で待っててくれると嬉しいな」
『本当?あ、それなら何か食事作って待ってるよ』
「え?いいのかい?そんな事してくれなくても…」
すると鈴音が言った。
『でも、私の手料理…直人さんに食べて欲しいし…』
「嬉しいよ。そんな風に言ってくれて」
今、ここに鈴音がいたら絶対に俺は抱きしめてキスしていただろう。
「それじゃお休み、鈴音。大好きだ」
『うん。おやすみなさい。直人さん。私も直人さんの事が…大好き』
そして俺と鈴音は2人一緒に電話を切った。
「…よし、今からでもまだ間に合うか?」
電話を切った俺はPCに向かうとディズニーホテルのHP画面を表示させた―。
****
翌日19時半―
「川口、今日はなんだか随分楽しそうだな」
ロッカールームで帰り支度をしていると先輩が声を掛けてきた。
「ひょっとしてデートか?」
別の先輩が話に加わって来た。
「あ?分りますか。実は彼女がマンションで料理作って待ってくれているんですよ」
最近、俺は職場で自分には恋人がいる事を宣言していた。…のろけも含めて。
「ちぇっ。羨ましい奴め。俺らにもその幸せをおすそ分けしろ。彼女の手料理残しておけ。そして明日タッパーに詰めて持ってこい」
滅茶苦茶な事を言う先輩だ。
「嫌ですよ。そんな事言うなら先輩も彼女作ればいいじゃないですか」
「うっ!お、お、お前…先輩に対して何て酷い事言うんだよっ!」
すると他の先輩たちも口々に言う。
「ああ、そうだ。今のは川口が悪い」
「モテる男にはモテない男の気持ちなんか一生分らないんだろう?」
「罰だ!罰としてやっぱり明日、彼女の手作り料理残してタッパに詰めてこい!」
「嫌ですよ。お断りします。それじゃ、彼女が待ってるんでお先に失礼します」
そして鈴音が待つマンションへ急ぎ足で帰って行った。昨夜から嬉しい事続きで俺はすっかり浮かれていた。何しろディズニーランドのホテルをクリスマスイブの日に予約する事が出来たし、思いがけずに今夜は鈴音が俺の為に食事を作って待っていてくれている。
ホテルが取れたことは…まだ内緒にしておこう。そして…少々気が早いかもしれないが、ホテルで鈴音にプロポーズするんだ。何しろ予約が取れた部屋は2人で初めて宿泊した思い出のホテルなのだから…。
その時―
トゥルルルル…
ポケットに入れていたスマホに着信が鳴った。
「鈴音かな?」
ポケットに手を突っ込み、スマホの着信相手を見て我が目を疑った。
「と、父さん…。何故…?」
その相手は1年近く絶縁状態だった父からだった―。
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