亮平 31

 季節は12月に入っていた。営業で外回りをしながら駅前の大通りを歩いていると立ち並ぶ店のあちこちでクリスマスツリーが飾られているのが目に留まった。


「早いもんだな…もう12月が終わりになるなんて…」


そして深いため息をつく。


…結局、俺は遠回しに鈴音に告白してみたものの完全にフラれてしまった。そして鈴音とは全く連絡を取り合わなくなってしまったが、忍の話しから鈴音は川口とうまくやっているようだった。

幼馴染という立場から、俺ははっきりと告白する事が出来なかった。そして痛感した。互いの距離が近ければ近い程、相手に気持ちを伝える事の難しさを…。


 腕時計を見ると12時半を過ぎている。


「…昼飯でも食うか」


丁度目の前にカフェがあった。そこに入ろう―。




 店内は昼時と言う事もあって、かなり混み合っていた。丁度2人掛けの丸テーブルが空いていたのでそこに座り、メニュー表を眺める。


「オムライスか…そう言えば鈴音、卵料理が大好きだったな。よし、これにするか」


小さく呟き、店内をキョロキョロしていると近くで店員が他のテーブル客に珈琲を置くのが目に留まった。よし、あの店員に頼むか。


「え?」


その時、俺は目を疑った。あいつ…川口か?丁度俺とその客とのテーブルの間には観葉植物が置かれている。俺はその陰に隠れるように様子を伺った。


「…間違いない。川口だ…」


普段見慣れないスーツを着ているから誰か始めは気付かなかったが、あの横顔は間違いない。俺から鈴音を奪っていった男…。だが、一緒にいる女は誰だ?長い髪の毛に派手なメイク、そして高級そうなワンピース…およそ鈴音とは全くタイプが違う若い女が笑顔で川口に話しかけている。一方の川口も受け答えはしているものの表情がどことなく堅く見える。そして一緒にいるあの女の目…間違いなく川口に惚れている。まぁ確かにあいつは背も高いし、外見もいい。悔しいがそれは認める。

だが…。

あいつ…何やってるんだっ?!お前には鈴音って言う恋人がいるはずだろう?!何で別の女と一緒にいるんだよ?鈴音はその事を知っているのか?!

そして気付けば俺は…スマホで2人の写真を盗み撮りしていた―。




****


21時―


「こんばんは。久しぶりね。亮平君が家に来るなんて」


玄関の扉を開けた忍が俺を笑顔で向かえてくれた。


「こんばんは」


「外は寒いでしょう?中へ入って」


「はい」


靴を脱いで玄関から部屋へ上がり込んだ。





「でも驚いたわ。電話を貰った時は。何か用事でもあるの?」


ダイニングテーブルでポットのお湯をカップに注ぎながら忍が尋ねて来た。


「ええ。少し鈴音の事でお願いがあって」


答えながら忍を見る。…それにしても不思議なものだ。今の俺は忍を見ても何も感じない。あれ程忍を恋い慕っていたのに…やっぱりマインドコントロールが解けたからなのかもしれない。


「鈴音ちゃんの事で話…?」


忍が向かい側の席に座った。


「実は鈴音に大事な話があるけれど、俺と鈴音…今気まずい関係になっちゃって、多分俺が誘っても断ると思うんですよ。それで申し訳ないのですが、忍さんから鈴音を呼び出して貰えませんか?」


俺の切羽詰まった様子に気付いたのか、忍が質問してきた。


「何があったのかよく分らないけど…それは鈴音ちゃんの為になる話なのよね?」


「…勿論です」


「分ったわ。私が鈴音ちゃんを呼び出してあげる」


忍が頷いた。


「ありがとうございます!」


頭を下げながら俺は思った。


鈴音を悲しませる奴は許さない―と。





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