本日、私の大好きな幼馴染が大切な姉と結婚式を挙げます

亮平 28

　あれから数日が経過したある日の事―。

　忍に呼ばれて家に行ってみると、鈴音がソファの上で眠っていた。

「おい、鈴音…？」

呼びかけてみても事故の後遺症の眠りのせいか、全く無反応だった。

「鈴音、こんなところで眠っていると風邪引くぞ？」

「…」

軽く揺すぶっても鈴音はぴくりとも動かない。

「…ったく…こんな無防備な事してると…今に誰かに襲われるからな？」

そしてそっと鈴音の唇に親指で触れてみた。柔らかい…。台所にいる忍の様子をそっと伺ってみた。包丁のトントンという音が聞こえている。

忍…こっちに来ないよな…？

「鈴音…」

そっと呼びかけながらソロソロと顔を近付けた。後少し…後数センチで鈴音の唇に触れられる…。

「好きだ…鈴音…」

そっと呟きながら唇に触れる寸前―。

「う〜ん…」

鈴音が少しだけうめいた。

「！」

慌てて素早く鈴音から離れ…我に返った。な、何て事だ…！俺はまた鈴音が眠っている時にキスをしようと…！

駄目だ…最近の俺は絶対にどうかしている。…鈴音からは離れた場所にいたほうが良さそうだ…。

俺は鈴音から離れた場所に座るとスマホをいじりはじめた―。

＊＊＊＊

　まずいことになってしまった…俺が鈴音の事を好きだということがひょっとすると鈴音にバレてしまったかもしれない。3人で親子丼を食べ、俺が鈴音を車で送って行くことになった時の事だった。不意に忍が言った。

「鈴音ちゃんは…私の大切な妹だから…襲っちゃダメよ？」

何気なく言った忍の言葉に俺は不覚にも顔が真っ赤になってしまった。ひょっとすると俺が鈴音にキスしようとしていた姿を忍に見られてしまったのか？

その時、鈴音は言った。

「やだな～…お姉ちゃん。亮平が私にそんな事するはずないでしょう？大体私たちはただの幼馴染なんだから…ね？亮…」

鈴音は笑いながら真っ赤になっている俺を見て…硬直した表情を見せたのだ―。

＊＊＊＊

　鈴音を駅まで車で送った後、俺は1人部屋でスマホを握りしめ、鈴音の事を考えていた。

駄目だ、俺は…川口を鈴音に勧めているくせに、鈴音に対する思いが止まらない。このままだと俺は今に本当に鈴音を無理やり襲って自分の物にしてしまうかもしれない。自分の握りしめたスマホをじっと見つめた。

そう言えばさっき、鈴音に電話を掛けた時、まだ鈴音はマンションへ着いていなかった。こんなに遅い時間なのに…？大丈夫だろうか？変な男に襲われたりしたら…。

よし。アイツに迎えに行かせよう。

俺は川口のスマホ番号をタップした―。

『もしもし…』

不機嫌そうな川口の声が受話器越しから聞こえてきた。また俺に何か文句でも言われると思っているのかもしれない。

「こんな時間に悪いな。今何処にいるんだ？」

「何処って、家に決まってるだろう？」

「そうか、なら鈴音を迎えに駅迄行ってくれるか？」

「え？まだ加藤さん、帰っていないのか？」

「ああ、そうなんだ。だから…」

「行くに決まってるだろう？！」

そして電話は切れた。

川口…鈴音を頼むぞ―。