亮平 20
「…はい、そうですか…。いえ、お忙しいところ申し訳ございませんでした。…失礼します」
ピッ
スマホの電源を切ると、大きなため息をついた。
「ふぅ〜…」
あの事故から1週間が経過していた。鈴音の意識は全く戻らず、病院に電話をかけてみても返事は何時も同じだった。
<加藤さんはまだ眠りから覚めません>
「…くそっ!」
ベッドの上にスマホを投げつけ、膝を抱えて頭を埋めた。
「鈴音…頼むから…目を覚ましてくれよ…。俺は…家族じゃないから…所詮は他人だから、お前の面会に行きたくても行けないんだよ…」
気づけば涙が滲んでいた。
どうする?もし鈴音が死んでしまったら…?ひょっとすると俺は生きていけないかもしれない。鈴音には伝えたいことが山程あった。今迄忍の事で辛く当たってきたこと、振り回してばかりしてきたこと…悲しませたこと…そして…。
「鈴音…俺は…お前が好きなんだよ…」
そう、俺はようやく自分の本当の気持ちに気付いた。あの日…交通事故で血まみれで倒れている鈴音を見た時、世界がまるで静止してしまったかのように感じた。どうか目の前の光景が嘘であって欲しいと、どれ程願ったか…。頭がおかしくなりそうだった。けれど皮肉なことに忍が取り乱して子供のように泣き叫ぶ姿が俺を現実世界に引き戻してくれたんだ…。
「馬鹿だよな…俺は…忍にマインドコントロールされていた事にも気付かず…忍の事が好きだと思い込んで…本当に好きな奴が誰だったのか気付いてもいなかったんだから…」
だから…どうか目を覚ましてくれ…!お前がいないと俺は…!
そして俺は今までの鈴音とのやり取りを思い出し…自己嫌悪に陥った―。
****
鈴音の事故から1ヶ月半が経過していた。病院に連絡を入れても返事は何時もと変わらないもので、俺の心は徐々に疲弊していった。そんなある日―。
俺はいつものように鈴音のマンションを訪れていた。鈴音が事故に遭ってからは定期的にマンションを訪れ、部屋の掃除をするようになっていた。
鈴音がいつ退院してきても大丈夫なように…。
「よし、郵便物は入っていないな?…ガムテープで塞いであるから当然か…ついでに自転車の空気もみておいてやるか…」
自転車の空気も入れたし、部屋の掃除も済ませた俺はマンションから出て来て驚いた。何と目の前に鈴音につきまとっていた川口が現れたからだ。
「加藤さんの幼馴染だよな?!加藤さんは…彼女はどうしたのか教えてくれないか?!」
急いでここへやってきたのだろうか?荒い息を吐きながら俺を見ている川口。
こいつ…俺の前で鈴音と親しげにしやがって…。気に入らない。
「さぁな…何でお前に鈴音の事を報告してやらなくちゃならないんだよ。俺は忙しいんだ。じゃあな」
そう言って帰りかけようとした時…。
「おい!待ってくれ!」
肩を思い切り掴まれた。
「うっ!」
こ、こいつ…細い体の癖に何て力が強いんだ?
「あ…わ、悪かった。つい…」
川口は俺から手を離すとすぐに謝って来た。そして俺に言う。
「お願いだ…どうか教えて欲しいんだ。俺…加藤さんと3月15日に会う約束をしていたんだ。なのに…いくら待っても彼女は現れなくて…。そしたら郵便ポストにガムテープは貼られているし…一体何が遭ったのかと思ってずっと心配で…」
「鈴音の…連絡先、お前は知らなかったのか?」
あれ程親しくしてたのだから連絡先くらい知ってるだろうと思って尋ねたのだが…。
「…知らない。俺の連絡先は渡してあるけど…加藤さんから連絡が来たことは一度も無かったから…」
「え?そうなのか?」
鈴音はこの男に連絡先を教えていない…。その事が少しだけ俺に優越感を与えたと同時に、哀れみを感じた。だから俺は鈴音のことを教えてやることにした
「分かったよ…鈴音のこと…教えてやる」
俺は…川口に鈴音の事を話してやることにした―。
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